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そして今回のターゲットが、この女だ。
顔は本人が言う通りイマイチ――ではない。むしろ美女だ。だから質が悪い。
この女はあえて自分を下げて『弱い立場』をアピールし、それに釣られた男を蠱惑的な四肢で絡め、捕まえ、懐を搾り取る。最初は『運命の出会い』だなんだのと言って確実に恋人になった女は虜になった男に尽くす。望むことをまるで心を読んでいるかの如く汲み取り、与え、自慢の身体を使って誘惑する。そうして夢中になった男に物をねだり、甘え、せがみ、懐をすっからかんにするほど搾り取る。その被害件数はもう両手で数え切れないほどになるという。そして被害者たちは口を揃えてこう言う。
『これ以上仲間が傷つかないためにもあの女を懲らしめて欲しい』
最初の一人に言われた時は俺を勝手に仲間扱いするなと憤ったが、何人も依頼しに来たとあれば放っておけない。なんせ、俺より劣るとはいえそこそこの腕を持つ正義がやられたのだ。他の奴らで成敗出来ないということは、もう俺しか可能にするやつはいないってことだ。
「……このへんか」
待ち合わせ場所として指定されたカフェの看板が目に入った俺は足を止める。軽く辺りへ視線を走らせて、まだ相手が来てないことを確認する。
「よし」
俺が先に着いた、というのは『とても楽しみにしている』というアピールの先手をとれた証拠。スマホを顔の前に掲げて目にかかる前髪を整え、襟元を正し、辺りとスマホを交互に見ながらそわそわしておけば『会えるのが楽しみでたまらない』というアピールとして二手。
『つきました。どこにいますか?』
到着してすぐにメッセージ。慌てたようなひらがな。気持ちが急いて変換を忘れてしまったようなメール。もし相手が先に来て待ち合わせ場所を窺っていたのだとしたら、今までの手を全て見て『私と会うために楽しみにしてくれたんだ』とほくそ笑ますことができる。手札を見せびらかすような俺の手に、警戒を抱く相手はそうそういない。それを証明するように、電信柱の物陰からこちらに視線を送っていた影がこちらへと小走りに向かってきた。着いた瞬間から視線は感じていた。獲物に相応しいかどうか見定めていたのだろう。そして金持ちそうじゃなければ帰る魂胆だったのだろう。それを防ぐために、俺はあえて自分の写真は見せていない。そのかわり、本物の高級時計をつけた手首をプロフィール写真としてのせている。ついでに言えば、俺の容姿はそこそこいい。顔面偏差値が低い男でも金さえあればいい女を食えるこの世界で、そこそこいい顔は女に食いつかれやすい顔だと俺はよく知っている。
「あの、マホトさんですか?」
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