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敢えて反対方向を見てキョロキョロしている俺の背に声がかけられる。緊張しているのか、少し声が裏返った高い声。俺は上がる口角をマスクの中に隠して振り向いた。ああ、やっぱり。思っていた通り、テレビにでも出ていそうな極上の美女がいた。
「はい。わぁ、えっと、君がミオちゃん?」
目が合ってすぐ、俺は視線をあちこちへ彷徨わせる。相手からすれば動揺して取り乱しているようにしか見えないだろう。それが狙いだ。
「わ、わ……えと……わ、……めっちゃ……美人さんやん」
途中で言葉は尻すぼみにして目をまともに合わせられないかのように装い足元へ視線を泳がせる。そんな俺に「フフ、可愛い」と余裕の笑みが零れる気配を感じ取った。それでいい。そうして油断している内に、俺がお前の腹の底を全て暴いてやろう。
「うわー、めっちゃハズイ。こんな動揺する予定やなかったんやけど、なぁ」
「フフフ、めっちゃ関西弁出てはるよ」
「あ゛。ご、ごめん……敬語がどっかいってもぅた……」
「全然いいですよ。この際、お互い肩の力抜いて喋りましょう?」
「あ、はい、ぜひ。あ、じゃあ、えと……どこ行く?」
「ん-、せやねぇ……」
ほぉ。コイツは手慣れているな。さらっと俺の腕に自分の手を絡めて身体を寄せてきたぞ。悩むふりをするかのように潤った唇の下に人差し指を甘えたように添えるあざとい仕草つきってのが手練れ感を漂わせている。ボディタッチも過剰過ぎない積極さ。俺の腕に豊満な膨らみが触れるか触れないか程度で寄せるもどかしい距離感も絶妙だ。そこらへんの男どもは簡単に落ちるだろう。俺に鬱陶しい程依頼がくるのも納得だ。こんな美人に積極的に迫られて、ご馳走になろうとしない男はいないだろう。
「あ、じゃあ、お腹減ったし近くのカフェでお茶しません?」
そう言って俺が指したのは、量が多いと有名なカフェ。女性より男性客や10代の若人たちに人気の場所だ。それを知っていて俺は示した。案の定、ミオの綺麗な顔が困ったような雰囲気を纏った。
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