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気遣いが出来る紳士。財布を簡単に出す男。弾ませた声。マスクを少しずらしてそこそこいい顔を見せつけながらの笑顔と言葉。俺からの連続攻撃を受けたミオはつられてマスクを少しずらしてから「ありがとう」とはにかんだ。かなり整った顔だった。化粧で目元や頬にラメがのっているが、見慣れている俺にはそれが殆どナチュラルなメイクだと察せれた。やはりミオは元が美人の根は腐っている金食い悪女で確定だろう。そうでなければ、俺の手首にある高級腕時計をちらちらと嬉しそうに見る理由がない。
「ラッキ。丁度5分後上映だって。行こう。買ったものは僕が持っていくね」
「わ、運がいいね」
嬉しそうに顔の前に両手をもっていき、ちょこん、と指先を合わせる。可愛らしい仕草を熟知している動きに俺は鼻で笑いそうになるのを誤魔化すように「可愛いなぁ」とデレデレしたように笑って入口へ向かう。
映画スタッフにチケットを見せてゲートを通って右手の通りに。そのまま『3』と書かれた入り口へ。入ったらまっすぐ進んで、左手の階段を上って、左奥の3人席の前に。
「奥、どうぞ」
「おおきに」
はんなりとお礼を返し首を軽く傾け言う姿は上品で可愛らしい。どこまでも徹底している所に最早プロの何かを感じる。だが俺とて負けていない。奥に座り込んだ彼女の出入りを防ぐように俺は真ん中にどかりと腰かける。俺の左手の空席には誰も来ない。
周りの席にも誰もいない。
薄暗い一室に、ホラー映像を流すスクリーン意外音を発する者はいない。
俺は前の座席に自慢の足を延ばして、通せんぼを完成させる。そのまま足を組み、ミオの座席側の壁に腕をついた。
「じゃ、ゆっくりおしゃべりしよっか」
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