器用な×より器用な君へ

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あぁ。 僕は人と比べて、ずっと不器用だからどうか石を投げないでほしいな。 僕の歪んだ足では、僕から生えたねじ曲がった金属片では立ち上がることすら億劫になるんだから。それでも一歩進むため、それでも真っ暗な路地裏から光を求めて、視界を染めて、耳をつんざく真っ赤な警告文に背を押されて今日も立ち上がろうと地面でもがく。 でもいつか忘れ去られてしまって、いつも来てはケタケタと笑う少年達がほんの少しだけ大人になって明るい向こう側から僕を一瞥するだけになったころ。 僕は心底疲れて、少しだけ眠りそうになっていた。 「今日はもうお終い?」 重たい瞼が閉じる寸前、聞いたことのない声がする。 身構えるための防衛機構も言葉を返すための発声器官も、もう予備エネルギーの一滴も残らず燃やしつくした僕の身体の中では役立たず同然で。 今の僕にできることは、閉じそうだった瞼を開けて学生服を着て艶のある黒い髪をたなびかせた小さな少女の姿を認識することだけだった。 「あら、可哀そうに。せっかく警戒情報が出て悪い子達が来なくなったのに、エネルギーを使い果たして動けないのね。ふふっ待っていて1ついいものあげるから。」 「今日あたり必要だと思っていたのよ」と何故か嬉しそうな少女は上等なハンドバックから小さなカプセルを取り出す。持ち物といい、話し方といいなんだか大人びた子だ。 そして少女は僕に有無を言わさず慣れた手つきでそれを飲ませ…ゴクリと僕の喉から乾いた音が響いた後、少しずつ少しずつ身体に力が戻っていくことが分かった。 「よくそんな身体で立ち上がろうとしていたわよね。 まだ外傷の少ない右脚ならともかく左脚は膝パーツは駄目になってるし…、あらすごい、太もものとこは人口皮膚も大きく裂けて。 私だったらもうとっくに諦めている状態よ。本当に、あなたってとっても器用ね。」 「器用」。少なくても意識が芽生えてから一度も向けられたことのないその単語に同様してしまって、何と返せばいいのか分からない。 「あぁ、いいのよ。これは全部独り言だから。 それにお礼だって要らないわ。ようやく我らの主のもとへ旅立てそうだった貴方を私の私的な理由1つで無理やりこの地獄に引き留めただけだもの。 このまま可哀そうな貴方を箱に入れて連れて帰ってあげることもできないし…なんなら恨まれる状況かもしれないわね、私。」 おどけた仕草で驚いてみせた彼女はクスクスと笑う。 「地獄の中でも、せめて最後ぐらいは楽しくいきたいわよね?」 最後にそう言い残して去る彼女の後姿は少しだけ、悲しそうだった。
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