36:キミのワガママ

3/5
前へ
/244ページ
次へ
 直前まで普通の態度だったというのに、顔を合わせた私は明らかに様子がおかしかったのだろう。  何かがあったのだと察した怜央くんは、リューさんに疑いの目を向けたのだ。 「隠すことでもねえから肯定したが、アイツなんつったと思う?」 「さあ……?」 「たった一言、『そっか』、だと。俺がアンタに何か言っただろうってこと、わかった上で何も責めてこなかったよ」  そう言うリューさんは、とても複雑そうな表情を浮かべている。 「アイツは昔から聞き分けが良くてな。母親の話は?」 「聞きました。中学に入った頃に、亡くなったって」 「そうか。……そっからだな。自分のことは後回しで、ワガママ言うことも無くなっちまった」 (……あれ?)  その言葉に、私はどうしてだか違和感を覚えてしまう。  幼い頃から怜央くんのことを知っているリューさんは、私なんかよりずっと彼について深く理解しているだろう。  そんなリューさんが、はっきりとそう断言したのだ。  どこまでをワガママと呼ぶかなんて、きっと基準は人それぞれだろう。明確なラインなんて存在していない。……だけど。 『着いてっていい?』
/244ページ

最初のコメントを投稿しよう!

52人が本棚に入れています
本棚に追加