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01:キミとの出会い
一生のうち、良いことと悪いことは同じだけ起こるなんて話がある。
けれど、果たして本当にそうだろうか?
「あの、良かったら座ってください」
息が詰まりそうなほどの満員電車。
私は運よく座ることができたけれど、目の前に杖をついた高齢者が乗り込んでくれば、席を譲るのは自然なことだと思う。
「あたしを老人扱いするつもりかい!? 失礼な子だね、結構だよ!!」
だが、誰もが同じ考えを持つわけではないらしい。
「そんなつもりじゃなかったんですが……すみません」
唾を吐きかけるように激昂する彼女の姿を見て、私は中途半端に立ち上がったままの身体を再び座席に沈める。
同情するような周囲の視線が集まるのを感じたが、気にせず遮断するようにイヤホンを両耳に押し込んだ。
移動することもできず、高齢女性はまだ何か文句を口にし続けているようだった。
人生って多分、誰にでも平等なものではない。
桜川 凛、26歳。
人に何かを期待することをやめようと思ったのは、もう随分と前のことだ。
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