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地上最後の龍は、今日も山の周囲を悠々と飛んでいる。
「奴さん、あんなことがあったのにまだ山にいるのか」
「それはこっちの台詞だよ、ギヴァリ。あんなことしておいて、よく俺に話しかけられるよな」
「俺も仕事なんだよ」
監視塔の窓辺で肩を並べながら、俺とギヴァリは龍の姿を眺めた。
どうやらギヴァリは俺の監視も兼ねていて、フィールドワークへ赴く俺には追跡器がつけられていたらしい。俺が帰還予定日を過ぎても帰らないので、命令通り軍部とともに俺の跡を追ったのだそうだ。
「でもよ、あの龍は、カナンのためにああしたんじゃないのか」
「うん?」
ギヴァリの言葉に、俺は首をひねる。
「傷の手当てをしてくれた恩人が危険な目に遭ってたから、助けようとしたんじゃないのか」
「まさか、そんなわけないだろ」
俺はもう一度、地上最後の龍を見つめる。
龍の考えていることはわからない。あの窪地で過ごした時間がどんな意味を持っていたのか、なくすべき寂しさがあったのか、父の、俺の研究はどこへ辿り着くのか。
それでも、地上最後の龍は今日も空を飛んでいる。
それだけでいい。
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