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火薬の破裂する乾いた音が聞こえて、俺は飛び起きた。
寝起きの頭で、素早く状況を確認する。銃声だ。俺は窪地で眠りこけていて、昨夜は龍の手当てをして……そうだ、龍は?
きょろきょろ見回すと、俺のすぐ近くに龍が横たわっていた。白銀の鱗が朝日を弾いている。傷はすでに治り始めており、薄桃色の新しい肉が傷口を覆っていた。
龍はわずかに頭をもたげ、窪地の上方の茂みに瞳を向けていた。
「カナン、見つけたぞ!」
聞き覚えのある声が窪地に響き渡る。茂みをかき分けて、ギヴァリが顔を出した。その焦ったような面持ちに、俺はずいぶん長く監視塔を不在にしていたことを思い出す。安心させようと片手を上げて、ギヴァリの顔色の悪さにギクリとした。
彼の背後で、茂みが動く。ギヴァリ一人ではない。もっと多くの人間がいる。
そういえば、と目だけを動かして龍を見る。龍の体は頑丈な鱗に覆われていて、滅多に怪我なんてしない。それなら、この傷はどうして負ったんだ?
やがて、上等な軍服をまとった大男が姿を現した。体が凍りつく。俺はそいつを知っていた。小銃片手に教会へやってきて、俺に父の研究を継げと笑って言った男。どこぞの大佐だ。
男は俺をじろりと見下ろし、厳かに告げる。
「カナン・ベルタ一等兵。よくぞ龍の棲家を見つけてくれたな。だが、軍部への報告が遅れたのはいただけない」
「は——」
俺の唇から漏れたのは、情けない吐息だけだった。いつのまにか背後にたくさんの兵がいて、俺の肩を掴んでいる。
大男が咳払いをし、兵たちに命じた。
「その亡骸こそが、龍の守る宝だろう。それさえ手中に収めれば、龍は我々の思いのままだ。回収しろ! 今こそ地上最後の龍を支配するときだ!」
揃いの軍服に身を包んだ兵たちが、ぞろぞろと巫女に近づく。無骨な手が一斉に伸ばされる。今しも崩れそうな、巫女の亡骸に。
その瞬間、拘束を振り払って走り出したのは反射だった。
「——触るな!」
巫女の前に身を投げ出す。真っ黒な銃口がいくつも俺に向けられる。その奥で弾ける火花の色さえ見えた気がした。
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