忘れて、忘れられて

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*** 「就活どうよ?」 「まったくしてない」 「もう三月も終わるぞ?」 「将来なんて、なんか、どうでもいいから」 「お前なあ。夢は?まだ見つかってない?」 「うん」 「探してもないんだろ?」 「……」  淳平(じゅんぺい)の言う通り、私は夢なんか探していなかった。きっとこの先、適当に就職して、どうでもいいから定年まで続けて、一人虚しく死んでいくのだろう。 「役者とか目指してみたら?」 「は?」 「お前、自分を演じるのうまいじゃん」 「意味分かんない」 「役者がダメなら、アイドルとかは?」 「だから意味が分かんないから。なんでそんな特殊な職業ばっかり進めてくるわけ?」  淳平が少しむせながら煙を吐く。その煙は空に昇ろうとしてすぐに消えた。 「そんな無理して煙草吸わなくても」 「無理なんかしてないって」  涙目になりながら今も咳き込んでいる。煙草から灰が落ちる。 「一度吸ってみてさ、そしたらハマった」 「嘘つけ」  煙草の匂いを風が運ぶ。ここは喫煙所なので他にも喫煙者がいるけど、咳き込んでいるのは彼一人だけだ。 「ゴホッゴホッ……場所変えようぜ」  ため息をついて立ち上がる。私も今度吸ってみようかな。 「お前は吸うなよ」 「……吸わないよ」  社会なんてきっと闇しかない。どんなにいい会社に就職できたとしても、働いてみたら現実を知るだろう。残業時間、給料、社内での人間関係、悩み事はなくならない。ホームページや就活のサイトに載ってる情報は往々にして偽りも多い。 「それで?少しは考えてくれた?」 「何を?」 「夢、てか、将来」 「まず私の質問に答えてよ」 「ああ、そうだったっけ」  私たちは空いていた小さな教室に入り、私は椅子に腰かけ、彼は黒板の前に立った。 「だって、幸せだろ?」  彼が白いチョークで黒板にでかでかと『幸せ』と書き込む。
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