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「就活どうよ?」
「まったくしてない」
「もう三月も終わるぞ?」
「将来なんて、なんか、どうでもいいから」
「お前なあ。夢は?まだ見つかってない?」
「うん」
「探してもないんだろ?」
「……」
淳平の言う通り、私は夢なんか探していなかった。きっとこの先、適当に就職して、どうでもいいから定年まで続けて、一人虚しく死んでいくのだろう。
「役者とか目指してみたら?」
「は?」
「お前、自分を演じるのうまいじゃん」
「意味分かんない」
「役者がダメなら、アイドルとかは?」
「だから意味が分かんないから。なんでそんな特殊な職業ばっかり進めてくるわけ?」
淳平が少しむせながら煙を吐く。その煙は空に昇ろうとしてすぐに消えた。
「そんな無理して煙草吸わなくても」
「無理なんかしてないって」
涙目になりながら今も咳き込んでいる。煙草から灰が落ちる。
「一度吸ってみてさ、そしたらハマった」
「嘘つけ」
煙草の匂いを風が運ぶ。ここは喫煙所なので他にも喫煙者がいるけど、咳き込んでいるのは彼一人だけだ。
「ゴホッゴホッ……場所変えようぜ」
ため息をついて立ち上がる。私も今度吸ってみようかな。
「お前は吸うなよ」
「……吸わないよ」
社会なんてきっと闇しかない。どんなにいい会社に就職できたとしても、働いてみたら現実を知るだろう。残業時間、給料、社内での人間関係、悩み事はなくならない。ホームページや就活のサイトに載ってる情報は往々にして偽りも多い。
「それで?少しは考えてくれた?」
「何を?」
「夢、てか、将来」
「まず私の質問に答えてよ」
「ああ、そうだったっけ」
私たちは空いていた小さな教室に入り、私は椅子に腰かけ、彼は黒板の前に立った。
「だって、幸せだろ?」
彼が白いチョークで黒板にでかでかと『幸せ』と書き込む。
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