忘れて、忘れられて

「またな」

　そう言った彼と私はまた別れた。
　私たちは別に付き合っているわけではない。昔から一緒にいるけど、恋愛感情なんか一ミリも抱いたことはないし、親友と呼べるほど大切な存在でもない。恋愛感情がないから緊張しなくて済むし、親友でもないから嫌われないようにと気を使わなくて済む。

　一緒にいると居心地がいい。ただそれだけ。

「またな？」

　別れ際、必ず彼はそう言う。意味があるのかは知らないが、その言葉を聞くだけで次を約束された気分になる。たった一言の別れの挨拶なのに。

「不思議だ」

　次への糧にも、生きるための縛りにもなる。言葉とはそう、とても偉大だ。