僕と彼の逢瀬

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 一目見て、浮世離れした綺麗な人だと思った。鼻筋は通り、肌は透き通るように白い。白銀の髪は肩よりも幾分と長く、サラサラと風にたなびいている。桜模様の不思議な和服を着ている。祖父母が着ている物とは少し形が異なっていた。 「何年生?」 桜の木の下で佇んでいた彼は僕の方に目線を移した。長い睫毛が陽の光でキラキラと輝いている。 「きょうから1年生」 新しいランドセルは固く、肩に重くのしかかっているが、新しい世界へと高揚感で気にならない。満開の桜は門出を祝ってくれているようだ。 「そっか入学か。春だね」 彼は空を見上げ、僕の入学よりも春を表している花びらがゆらゆらと落ちていくのを微笑みながら眺めていた。 「お兄さん、だれ?」 放っておいたら消えてしまいそうで僕は話しかけた。彼は考え込んだ後、整った唇に傷ひとつないスラリとした指を置いた。 「秘密」 口は弧を描いて優しげな目が僕を映している。何でも見透かされてしまいそうな気分になり、目を逸らすと彼がふんわりと風が吹いたような軽さで僕の頭を撫でた。桜の香りが広がる。 「翔太ー」 母の声が聞こえて振り返ると遠くからおめかしをした女性が走ってきていた。息切れをしながら僕のそばに来ると、桜の香りに化粧品の匂いが混ざる。 「お母さんのこと待っててよ。1人で行かないで」 怒った口調だったが心配そうな顔をしていた。イヤリングなどのアクセサリーをつけて、ヒールを履いていた。いつもパーカーを着ている彼女の珍しい格好は特別な気分にさせ、背筋が伸びた。母の知らない部分を垣間見たような驚きと不思議な緊張感がある。 「ごめんなさい」 彼女は僕の両肩に手を置き抱きしめてから、左手で頭を撫でた。指輪が僕の後頭部に当たる。乱れた息遣いが耳元で聞こえた。 「ここで何してたの」 抱きしめて乱れた髪を直しながら見つめられる。 「お兄さんとしゃべってたの」 「誰もいないよ」 彼女は僕が指差した方向を見やると、不思議そうに首をかしげた。彼は寂しそうに苦笑して手を振った。
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