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NPB(日本野球機構)」、とだけ書かれた進路希望調査票を眺めながら監督は困ったように笑う。 「気持ちはわかるが……一応第二、第三希望までは考えてほしかったんだけどな」 「絶対にプロに行くので必要ありません」 「そりゃお前、教師として教え子の夢は応援したいけども……」  やれやれといった様子で寂しい頭部を掻く監督に俺は苛立つ。  高校三年の六月。球児として最後の夏を控えると同時に進路選択の岐路でもあるこの時期。俺は野球部監督に進路指導室に呼び出され、面談を受けていた。  咲丘高校野球部は少数精鋭ながら、ここ数年学校の方針で地元の有力選手獲得に力を入れており、徐々に強豪へと変貌を遂げつつあるチームだ。  俺自身、中学時代そこそこ名の知れた数校からスカウトが来たが、目の前のこの監督から直接口説き落とされる形で咲丘へ入学を決めた。  あの時は確か「中乃森くんの夢を一緒に叶えたい」なんて熱く語っていたのにアレはなんだったのかと、なんだか騙されたような気分になる。
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