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 いつの間に電球を取り替えたのか、以前より明るくなった部屋で監督を待つ。暇なのでさっきから眺めているケータイ画面の中では、松木が相変わらず精密機械のように腕を振るっている。  あの時。俺が放った左中間への大飛球は、センターに横っ飛びでもぎ取られ、俺たちは呆気なく3999校の方の仲間入りを果たした。  今行われているのは決勝。このまま行けばきっと奴ら海皇高校が、この夏に一番明快な「意味」を与えることになるだろう。  春夏連覇ともなると、ドラフトの競合指名は確実だろうな。他人事のように思った後、俺はケータイの電源を落としてポケットにしまった。  10分ほど待ったところで監督はやってきた。ユニフォーム姿であるところを見るに、早くも新チームの指導中なのだろう。改めて自分がもう引退したという事実を実感し少し寂しくなる。 「おう、待たせたな中乃森。で? 進路決めたんだって?」  頷いて、進路希望調査票を差し出す。監督はそれを一目見た瞬間「えっ」と声を漏らした。 「なぁ、これって」 「はい。野球は高校で辞めることにしました」
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