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監督は言葉を選別するようにしばらく唸っていたが、俺を丸め込むための手頃なソレを思いついたのか、ゆっくりと口を開いた。
「お前は確かに良い選手だ。俺も長年監督やってるけど、初めてプロに教え子を送り出せるかもしれないと、そう思わせる素質はある。けど、絶対じゃない。それにうちは甲子園に出場した実績がないし、注目度自体それほど高くない」
「現時点では確かに、そうかもしれません」
監督の言葉に俺も正直に答える。現在の俺の実力では、良くてドラフト下位でギリギリで拾われるかどうかだろうとわかっているつもりだ。
だけど。
「最後の夏、俺は必ず甲子園に行って、大活躍して、自分の手でプロ指名を勝ち取ります。だから第二希望は必要ありません」
キッパリと告げて監督の表情を伺うと、薄暗い電球のせいか妙に沈んで見えた。前からずっと思っているけど、生徒の進路について話をする部屋なんだからもっと明るい照明にしたらどうだろうか。
「……気持ちはよく分かった。だけど最後に一つだけ、俺の話を聞いてくれ」
監督の声ににわかに力がこもる。静かながら凄みを感じるその声に、俺は無意識に姿勢を正した。
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