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「お前にとって、高校野球をやる意味はなんだ?」 「意味?」 「夏の大会。全国約4000のチームが頂点をかけて争うが、その中で、最後の試合を勝利で飾ることができるのは1チームだけだ。それ以外の3999チームは、負け試合で選手生活を終えることになる。  もっと言えば、優勝チームにすら敗者はいる。レギュラー落ちした者。ベンチに入れず、スタンドからの応援を余儀なくされた者。彼らは優勝しても尚『負け』だと感じるかもしれない」  当たり前のことを、と思いつつも真面目に耳を傾ける。今まで何人もの選手を、次のステージへと送り出してきた重さが、言葉に宿っている気がしたからだ。 「何が言いたいかと言うと、高校野球に『勝利』という明快な意味を与えられるのは、ほんの一握りだけなんだ。その他のほぼ全ての球児は、『負け』の中に意味を見出さなきゃならない。  それは仲間との絆でも、辛い練習を乗り切った経験でも、何でもいい。最悪、上手なサボりの言い訳でも、他校のマネージャーの連絡先だって構わん。引退するその時、どうか高校野球に意味を見出していて欲しい。お前にも」  意味、と心の中で反芻する俺に「別にお前たちが負けると思ってるわけじゃないからな」と付け加えて監督は笑った。
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