2/2
前へ
/16ページ
次へ
「置いてきちゃっていいのか? 佐久間さん」 「ああ。話はもう終わってたから」 「何の話をしてたんだ?」  何の気無しに尋ねると、いつも歯切れの良い涼が気まずそうに言葉を濁す。そこでようやく、恋人同士の会話の中身を尋ねるなんてナンセンスだったと思い当たる。 「言いにくいならいい」 「いや、大した話じゃないさ。俺が絶対甲子園に連れて行くから、応援よろしくみたいな」 「うわっ、お前そんなベタな約束してるのかよ」 「うるせぇ! 別にいいだろ!」  ぷりぷりと怒る涼に、俺はさっき監督に言われた言葉を思い出した。  涼にとっては、甲子園出場が叶えばそれが一つの「意味」となり得るのだろう。  将来佐久間さんと順調に結婚までいったとして、彼らの子供に「父さんと母さんは、選手と応援団として甲子園に行ったんだぞ!」なんて自慢する姿が目に浮かぶ。  なら俺はどうだ? 考えるまでもない。プロ野球への切符、それこそが最後の夏、ひいては高校野球に求める「意味」だ。  たとえ今は注目されていなくても、甲子園という大舞台で活躍すれば必ず、プロの目にも評価対象として映るはず。  あのアニメの主人公のように、俺は必ずプロになってみせる。 「おい涼、さっさと練習行くぞ。今日は厳しくいくから覚悟しとけ」 「待てよ篤茂! 廊下は走るなって!」  居ても立っても居られず急いで部室に向かった俺は、その日は宣言通り、キャプテンとして厳しく部員たちを扱き上げた。
/16ページ

最初のコメントを投稿しよう!

8人が本棚に入れています
本棚に追加