私が桜を恐れる理由

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 ひっきりなしに散っていく桜。風は穏やかなはずなのに、花びらは蝶のように、時折重力に逆らうように舞う。やわらかく差し込む光が室内に明るさと温かさをもたらしていた。  しかし私には、空の青と桜の色が対照的で綺麗ね、なんて眺めている余裕はなかった。 「葉摘(はつみ)はまだ、桜が怖いの?」  白いベッドに半身を起こした美桜(みお)は、労わるような目を私に向けた。大きくて長い睫毛は、少し伏せるだけで涙袋に影を落とした。  自分より他人の心配をする彼女は相変わらずだ。私はふっと頬を緩めた。 「まあね」  ただそれだけ返事をして、窓の外に目をやる。  壮大で、吸い込まれそうで。  ただ音もなくはらはらと桜が花びらを散らしている。そんなに延々と、尽きることはないのだろうか。  額から汗がつうと流れた。視界がちかちかしてくる。花びらが裏、表、裏、と回りながら落ちていく。ごつごくした幹の肌に細かい影が伸びている。病室の椅子に腰掛けているはずの私には桜の木が目の前に迫っていた。 「葉摘、ちょっと、葉摘!」  美桜に呼ばれて我に返った。目をしばたたかせたのち、ふーっと長い息を吐いた。 「大丈夫?」  彼女に顔を覗き込まれる。私は手の甲で額の汗を拭った。 「うん、大丈夫……」 「ごめんね、私のお見舞いに付き合わせたばっかりに」 「あ、いや」  申し訳なさそうにする彼女に余計焦りが募った。彼女は上半身をこちらへ傾け、力の入ったような体勢でいる。ただでさえ病弱な彼女に、少しでも無理な格好をさせたくなかった。 「本当に大丈夫だから」  手のひらを相手に向けて懇願すると、ようやく彼女は向き直った。
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