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「妖とか、禍々しいものとか、この世に存在しちゃいけないものの気配とかが宿ってるって聞いたことあるんだよね」
何の話だろうか。彼女なりに私を励まそうとしているのだろうか。
「でもそれって漫画とか小説とかお伽噺で言われてることでしょ?」
私の言葉に彼女はキュッと目を細める。
「作り話にしてもさ、そういう話があるってことは全くの嘘ってわけでもないんじゃない?」
「……つまり私が桜を怖いと思ってるのは、そういう妖気みたいなものが桜から出てるからってこと?」
彼女はうんうんと頷く。
「それなら、なんで美桜は平気なのよ?」
美桜は私から目を逸らすと小さい声で唸った。
「葉摘には妖と対になる力があって、それが反応してる……とか」
「妖と対になる力って、例えば?」
私が問うとこちらへ顔を向けて口角を上げた。
「そりゃあ、浄化の力でしょ」
得意げな顔で言い放った。俗に言う「ドヤ顔」というやつだ。ふっ、と堪えきれず口を緩めると、相手も耐えかねたのかわっと笑いだした。
肩を上下に揺らして笑う姿は、とても病人とは思えないほど快活だ。頬は嬉しさのせいかほんのり桜色に染まっている。
私に、本当に浄化の力があったなら。
「そんな力があるんだったら、美桜の病気も浄化したかったな」
彼女を病気から遠ざけたい。二度と朽ちることがないように。二度と苦しまないように。
私の心情を察したのか美桜は笑いを引っ込めた。
「そんな……」
そんなことはありえない? それとも、そんなに悲しまないで?
彼女は何を言おうとしたのか。それがわかれば、もう少し彼女の苦しみを受け止めることができたのだろうか。
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