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数日後、私は再び美桜の元へ行った。驚いたことに桜はまだ窓枠いっぱいに咲いている。むしろ今が最盛期なのではないかと思うほどの輝きだ。
ぐらりと視界が歪んだことで、初めて自分が桜を直視してしまったことに気づいた。
「葉摘!」
美桜に腕を掴まれる。
「ごめん」
私は体勢を整えた。これではどちらが病人かわからない。私が呼吸を整えている横で、彼女は心配そうにちらちらと視線を寄越した。
「もし葉摘がつらいなら、もうお見舞いには来なくてもいいよ。私のことはほっといてさ」
遠慮がちに言った彼女に、私の目が自然と合わせられる。
来なくていい、彼女はそう言った。拒絶の言葉とあまりに酷似していた。彼女なりの気遣いだと言い聞かせても、なんだか自分の行動を否定された気がして固まってしまう。
じっと見つめても相手は伏し目のままだ。
目が乾いたのかひりひりしてきた。瞬きすると張り付いた瞼が遅れて眼球を覆い、涙が出た。
それに気づいたらしい美桜はようやくこちらに目を合わせた。
「あっ、ごめん……。その、来られるのが嫌なわけじゃないんだ」
私が泣いていると思ったようだ。いや、私はもしかしたら本当に泣いていたのかもしれない。
一筋伝った涙を拭う。相手を狼狽させていることに僅かながら優越感を抱きつつ、大袈裟に深呼吸してみせた。
「大丈夫。私は、来たくて来てるだけだから」
「葉摘……」
美桜の頬が桜色になる。
「うん。ありがとう」
にっこり微笑む彼女を見て、やっぱり美桜には笑顔でいてほしいと思った。
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