私が桜を恐れる理由

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 浮かんだ言葉を飲み込んだ。どれも彼女にかけるには不正解な気がする。 「み、お」  言葉を失った口はただ彼女の名前を呼ぶしかできなかった。それでも、緊張のせいか渇いた喉が痙攣し咳き込んでしまう。 「あ、葉摘、大丈夫?」  仕草はゆっくりだが美桜は焦ったように手を差し伸べた。その手にそっと触れると思いがけず温かかった。 「葉摘の手、冷たいね」  相手に言われた私は無言で頷いた。  気まずくなって目を逸らすと青空が視界に映る。窓と向かい合っているためぼーっとするとすぐ外を見てしまうのだ。  だいぶ疎らになった桜は、空の青に少し圧されているように見えた。はらりと時折小さなものを落とす。それが涙のようにも見え、この桜は泣いているのだろうか、などと我ながら突飛なことを考えた。もしかして桜が怖いのは、と何かに思い当って顎に手を当てた。 「私ね、考えたの」  ぽつりと美桜が呟いた。 「おばあちゃんになるまで葉摘と生きたい。こうして二人でお話ししたり笑ったりしてたいなって」  続けて喋るのが苦しいのか、深呼吸をすると再び口を開いた。 「今の私じゃそこまで生きるのは無理かもしれないけど……。せめて、あの桜が全部散るまでは生きていたい。叶うなら、葉桜になるまで見届けたい」  苦しそうに押し出される声とは裏腹に、目には確かな意志が宿っていた。 「美桜……」  これ以上彼女の目を見つめたら涙が溢れそうで、私は外の青を見た。全てのものがこの青空のように穏やかに流れていたら、どれほど良かっただろう。
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