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美桜は小さい頃からずっと大人だった。誰かに傷つけられても、誰かを傷つけても、決して泣かなかった。
それに対して私は泣き虫だった。クラスメイトの誰かが大怪我をした場面に遭遇すればしくしく泣き出した。
「まあ、どうして葉摘ちゃんが泣くの?」
と先生に苦笑いされたこともあった。
そんな時、得意顔でずいと前に出たのは美桜だった。
「だって、葉摘ちゃんは他の子の痛みがわかるんです」
ことあるごとに泣いた私。そんな自分が嫌で嫌で仕方がなかった。思えば私の精神はとっくのとうに蝕まれていたのかもしれない。
他の人の痛みがわかると言えば聞こえはいいだろう。だが私がそういう感覚を持ったところで何になるのだろうか。しかも一番肝心な相手の痛みはきっと少しも理解できていないだろう。
こんな私なんて──。
私は唇をきつく噛んだ。
美桜はあんなに強かったのに、誰にも涙を見せなかったのに。
私が泣くのをこらえていても、平気な顔をしていても、美桜はすぐそれを見破った。
「泣きたかったら泣いてもいいんだよ」
そんなことを言われたら、涙が止まらなくなるに決まってる。
啜り泣く私の隣で、美桜はいつも私の背中をさすってくれた。心が落ち着くような笑顔を向けてくれた。
けれど今の美桜は。
「美桜」
こんな私の隣には、桜色に頬を染めて笑う美桜がいないと、どうにかなってしまう。つらそうな、苦しそうな美桜なんて。
私にはもう何も見えなかった。
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