私が桜を恐れる理由

　皆黒い服を身に纏い、俯いたり目頭を押さえたりしている。
「小さい頃から病弱だったから、よく頑張ったと思うよ」
「そうね……悲しむのはきっと美桜が嫌がるわね」
　目を真っ赤にした女性と、その肩をそっと抱く男性。あれは美桜の両親だ。呆然と立っていると、女性のほうが先に気づいた。
「あ、葉摘ちゃん……」
　目が合った私は会釈する。あの子が美桜のお友達で、と隣の男性に紹介している。
　母親とは面識があったが、父親とは初めて顔を合わせた。こんな形で彼女の両親と挨拶をするなんて、考えたこともなかったし考えたくもなかった。
　真っ白な棺の小窓が開けられ、顔を見ることができた。美桜の顔は安らかで、あんなに病に苦しんでいたとは思えなかった。長い睫毛はレースのように揃っている。今にも瞼がぴくぴくと動き出しそうだ。血色はあまり良くなかったが、唇にはかろうじて桜色が差していた。
　傷ひとつない、首を絞めた痕さえ残っていない、透き通った肌。そうか、美桜は病で亡くなったのだ。
　私の視界はもう曇ることも歪むこともなかった。