そんな趣味はないけれど、なぜか君のことが気になります

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 暗く四畳半の狭い部屋の中央に将太が大の字になって寝転がっている。近くを電車が通るたびに、その古い木造アパートはガタガタと派手に揺れた。  電灯もつけずに散らかった部屋に横たわる将太はぶつぶつと独り言を言っている。部屋の角に置かれたノートパソコンが寂しげに光を放っていた。 「やってらんねー、何であれくらいのことであんなに暴落するかな。これでもうスッテンテンだ。くっそー!」  将太の独り言は最後に絶叫となっていた。 「うるせーぞ!」  薄い壁一つ隔てた隣の部屋の住人が怒鳴り返した。  将太はそれを聞くとむくっと起き上がり、部屋を出て隣の部屋に行き、ドアを乱暴にノックする。  ドアにはカギが掛かっていないので、ドアを開けて将太の部屋と同じように散らかった狭い部屋の中に向かって怒鳴る。 「おい!」  隣の部屋の住人の大夢が将太を見る。 「何だよ」 「なあ、ちょっと貸してくれよ。今、全財産飛んじまって」  笑顔になって将太が言う。 「いいよ。米か? 醤油か?」 「金だよ。金。げ、ん、き、ん」 「ああ、金か。いいよ。お前に貸してあった三万返してくれたら」 「え! そう言わずに頼む」 「ダメ。一ミリもダメ。他の奴に当たってくれ」 「けち!」  捨て台詞を残して立ち去ろうとする将太の後ろから声がかかる。 「ちょっと待った!」 「何、貸してくれるのか」  将太は期待に満ちた表情で振り返る。 「貸さない。だけどいいバイトなら知ってるぜ」 「バイト?」 「日払いのバイト。その日に日当をくれるから、取りあえず食う物には困らないだろ」 「行きます。教えて」  将太はバーや飲み屋が並んだ通りを歩いている。まだ昼間だから人通りは多くない。 「ガールル、ガールルと。変な名前だなあ。お、あった、あった。こういう所ならバイト代もいいだろうな。それに一度やってみたかったんだ。バーテンみたいなこと」  ケバケバしい店の重いドアを開けて中に入る。  開店前の店の中は暗くガラーンとしている。 「すみませーん、誰かいませんかー」  奥から中年の男が出てきた。 「何ですか」 「あの、アルバイトについてお聞きしたいのですが」 「ここでアルバイトをしたいの? いつから?」 「いつからでもいいです」 「じゃあ、今日から」 「今日から?」 「ダメ?」 「いえ、大丈夫です」 「じゃ、四時に来て」 「はい」 「この紙に住所とお名前と電話番号を書いてちょうだい。学生さんなら、学生証ある?」 「あります」  将太は財布から学生証を取り出して見せた。 「ふーん」  ちょっとおネエさんらしい男が、珍しいものを見るような目で将太を見てから学生証を返した。  学生証を受け取ると将太は差し出された紙に名前や住所を書く。 「あの、ここでは給料は日払いでもいいと聞いたのですが」  書きながら将太が尋ねる。 「ええ、真面目に働いてくれるのなら」  男は甘い目で将太を見ながら言った。  ぼろアパートに帰ってきて、将太は自分の部屋に入る前に大夢の部屋のドアをノックした。 「どうだった?」  ドアの奥から顔を出した大夢が尋ねる。 「OK。今日から来ていいって」 「へえ。早いな」 「日払いで給料くれるっていうし、いいところを紹介してくれてありがとう! 今度おごるから」  将太はそう言って、ルンルンと嬉しそうな仕草で自分の部屋に行った。 「あいつ、ちゃんと聞いてきたのかなあ、仕事の内容」  大夢は自分の部屋に入っていく将太の姿を見ながら心配そうにつぶやいた。
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