そんな趣味はないけれど、なぜか君のことが気になります

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 将太は愕然とした顔で店の入り口に棒立ちになっている。  すぐに数人の女装した男たちがぞろぞろと店から出てきて取り囲まれてしまった。手を引っ張られ、背中を押されて店の中に引っ張り込まれてしまう。  テーブルの前に座らされ、髭の剃り跡も青いおネエが両側に座る。 「ちちちちち違うんです」 「何が違うの?」  隣に座る肩幅の広い派手な化粧をしたおネエが裏声で言った。 「あ、ああ、あの、違うんです」  将太はあまりの出来事に衝撃を受けすぎて頭の中を整理できずにいる。 「何が違うんだ。オカマは嫌いって言うんじゃねえんだろうな」  派手な化粧のおネエが急に凄んだ声になって言った。 「い、い、いえ、そんなことはありません」  将太はうろたえて言った。本当はオカマなんて嫌いだと思うけれど、そんなこと言える雰囲気じゃない。 「私、ユリ。よろしくね。じゃ、お飲み物は? ビール? 焼酎? 水割り?」 「あ、いえ、だから違うんです」 「えー! 僕もオカマを?」  店の奥の小さな部屋で、将太は先ほど隣に座っていた肩幅の広い派手な化粧のおネエと、昼間話をした中年の男を前にして話をしていた。 「何よ、そのオカマを馬鹿にしたような口ぶりは」  ユリがムキになって言う。 「す、済みません」 「じゃ、着替えて。あなた細身だから、渚ちゃんの服が着られそうね」 「ちょ、ちょ、ちょっと待ってください。僕はそんなことできません」 「そんなに照れなくてもいの。男は誰でも女になってみたいっていう願望を持っているんだから」 「持っていません」 「とにかく早く着替えて。お客さんが来ちゃう。あなた若いから、すぐに人気者になれるわ」 「人気者にならなくていいです」 「お金がいるのでしょ?」  それまで無言だった中年の男が言った。よく見ると昼間と違って、この男も薄っすらとではあるが化粧をしていて、強い香水の匂いがしてくる。 「私がお隣に付き添って、マンツーマンで指導してあげる」  ユリが意味ありげな目線で微笑んだ。  将太がスカート姿で現れた。散々ユリに顔を塗りたくられ、すでにあきらめの境地に達している顔つきだ。  店にはまだ客がいない。  リカがすぐによってくる。ユリよりはまともな感じのおネエだ。 「ん、まあ、綺麗になったこと。さすがユリちゃん、お上手」 「私って美的センス抜群だから」  二人の会話を聞いていて将太は背筋が寒くなる。 「大体のことは教わった?」 「はい」  化粧をし、服を着替えている間に仕事では何をすればいいかをユリから聞かされていた。ただ、このような店に来た経験がない将太は、話を聞いただけではよくわからないところもあった。 「じゃ、初めのうちは渚ちゃんと一緒にお仕事をしてちょうだいね。色々と教わるといいわ。渚ちゃんもあなたと同じようなタイプだから」 「ええ? 私が教えてあげるわよ。色々と」  ユリが口を挟んだ。 「ダメ。あなた、この子を狙っているでしょ」  リカがユリを睨むようにして言った。 「そんな」 「さ、それじゃ、・・・・あなた、お名前は?」 「原口将太です」 「違うの。ここでのお名前。源氏名よ」 「さあ」  将太は困ってユリを見る。 「何でもいいでしょ」  ユリは脹れて行ってしまった。 「それじゃあね」  リカが将太の顔を見て考える。 「さくらちゃんなんてのはどう?」 「さくら・・・・」 「もう散っちゃたけど。嫌?」 「いえ、それでいいです」  もうどうにもなれといった気持で将太は言った。 「じゃ、こっちに来て」  リカに案内されて、さくらこと将太は店の奥のソファに座る少女の元に行く。 「渚ちゃん、こちら、今日からここで働いてくれるさくらちゃん。色々と教えてやって」  少女が顔を上げた。男だとばかり思っていたが、とてもそうは見えなかった。幼さの残る美少女だ。 「はい」  渚がすました顔で将太を見た。将太は思わず渚に見とれた。 「よろしくね」  渚が言い、将太は我に返った。 「は、はい! よろしくお願いします」 「緊張しなくてもいいのよ」  リカが笑いながら言う。 「はい、すみません」 「いい? 大事なのはお客さんに少しくらい嫌な事を言われたり、されたりしても、決して嫌な顔をしちゃあダメよ」 「は、はあ」 「ひどいことをするようなお客さんがいたら、私たちが助けてあげるから」 「はい、よろしくお願いします」 「じゃ、渚ちゃん、よろしくね」 「はい」  渚は慎ましやかに返事をした。
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