そんな趣味はないけれど、なぜか君のことが気になります

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 地下街も大勢の人で賑っていた。  将太のバイクはつるつるとした床に滑りながら店先のものを跳ね飛ばしながら走る。  並べられたマネキンを跳ね飛ばし、オレンジの入った箱をひっくり返し、白い髭のストライプおじさんを蹴飛ばしてバイクは止まった。地下街は大混乱になっている。 「やばい。もう追ってこないか。でも、ここにいたら、またじきに奴らが来る」  将太はバイクを走らせ、エスカレーターにバイクごと乗り、再び地上へと出る。  そこには待っていたかのようにガラの悪い男たちが大勢いた。 「コラー!」 「待てガキ!」 「待たんかい!」  男たちが口々に叫ぶ。  将太はアクセルを吹かし、白煙を上げサイドターンをしてバイクの方向を変えると、近くの路地に逃げ込む。  細い路地をアクセル全開で走り、ゴミ箱を跳ね上げ、野良猫を追い払って走る。  路地を抜けようとしたところに車が現れて道を塞ぐように停まった。  将太が急ブレーキをかけ、バイクはギュギュギュギュっとタイヤを軋ませ、リアを大きく跳ね上げるが、停まりきれずに車に激突する。  バイクはくるくる宙を舞い、ぶつかった車にドカッと垂直に突き刺さった。  将太もくるくると空を舞い、歩道の大きな街路樹の枝に引っかかってブランブランと揺れる。  その下に男たちが駆け寄ってくる。  男たちを見て、将太は手足をバタバタさせて木にしがみ付くと、勢いを付けて近くの歩道橋に飛び移った。  歩道橋を走り、中ほまで来て下を走る車を見下ろす。後方を見て大型のトレーラーが来るのを確認するとタイミングを見計らって車道へとダイブする。  勢いよく跳びすぎたため、トレーラーは先に行ってしまう。 「あれ? どわー!」  将太は空中でじたばたする。  そこにドカンとした衝撃があった。  飛び乗ろうとしたトレーラーの後ろから走ってきたトラックのコンテナの上に着地し、ゴロゴロと転がる。  コンテナの端まで転がっていき、振り落とされそうな所で何とかしがみ付いてそこに留まった。  トラックの後ろから何台もの車が猛烈な勢いで近づいてくるのを見て、将太の安堵の表情が一瞬にして恐怖に凍り付く。 「もうダメだ。完全に怒らせちまった。明日はコンクリートとお友達になって海の中か」  車はどんどん迫ってくる。 「くそ!」  将太は走るトラックの上から再びジャンプする。  路肩に駐車中の車の屋根をボコンボコンとへこませて歩道へ転がり落ちる。そのままの勢いで歩いていた若い女性のスカートの中に頭を突っ込んで止まる。 「キャー。キャー!」  将太はすぽっとスカートから頭を出す。 「ごめん! 今度何かおごるから!」  車道で高級車が次々とけたたましいブレーキの音を立てて停まる。  将太は立ち上がると走り出した。  停まった車からは男たちが降りて将太を追って走る。車もまた、将太を追って走り出す。  そんな様子を見て走る将太が前を向いた時、ドンと何かにぶつかった。ずっこけそうになるところをこらえ、慌てて体勢を立て直す。  目の前には相撲取りのようなバカでかい男が立っていた。将太を睨みつけるようにして見下ろしている。 「あ、すみません」  将太は大男の横をすり抜けて走り出そうとする。しかし、後ろからむんずと襟首を掴まれた。 「へへへ。親分がお呼びだ」  大男は道端に停めてあるベンツのほうへ将太を引きずっていく。 「東京湾か。水は冷たいかな」  ぐったりとした将太があきらめの境地で言った。
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