そんな趣味はないけれど、なぜか君のことが気になります

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 将太は大男を見ながら女物の上着のボタンを外していった。大男は将太のことなど気にせずに服の襟を掴んで車のほうへとずんずん歩いていく。  服のボタンを外し終えた将太は服をばっと脱ぎ捨て、一目散に走り出す。 「おい、待て!」  大男がどたどたと将太を追う。  車からも男たちが出てくる。  将太は近くのビルに逃げ込んだ。  そのまま通路を走り抜け、反対側のドアから外に出ようとするが、カギが掛かっているらしく、ドアは開かない。後ろからは例の大男を先頭に男たちが走り寄ってくる。  将太は近くの階段を駆け上った。  二階の通路の一番手前にあるドアを開けて中に入る。  そこはエアロビクスの教室で、若い女性や若くない女性たちがレオタード姿で踊っていた。  賑やかな音楽が流れる中、やはりレオタードを着た講師らしい女性が将太を見てやってくる。 「入会希望の方?」  講師の女性は派手な化粧をして、スカート姿の将太に尋ねた。 「いえ、部屋を間違えました。失礼します」  部屋を出ると、男たちが階段を駆け上ってくるところだった。  将太は反対側へと走り出すが、通路の向こうにあるエレベーターからも男たちが出てくる。  周りを見て、近くのドアを開けて中に飛び込んだ。  いい匂いがした。  そこでは料理教室をしていて、ちょうど生徒たちが出来上がった料理を皿に盛りつけているところだった。 「ごめんなさい」  いい匂いにつられて急に空腹を覚えた将太は何かのフライを皿から摘み上げ、口に放り込む。 「美味い!」  教室の中を走り回りながら、次々と皿のフライを手にして頬張った。  部屋の入り口から、いかつい男たちが次々と入ってくる。 「ごちそうさま!」  そう言って将太は窓のガラスに体当たりした。  将太は空中にいる。 「あ、あれ? ここは一階じゃなかった!」  将太は空中で手足をバタバタさせながら落ちて行く。 「うっわー!」  歩道で商売をしていた蕎麦屋の屋台の上に落ち、ガシャーンと音がして屋台はバラバラに砕け散る。 「ごめんなさい! おかげで助かりました」  将太は目を回している蕎麦屋の亭主に言い、腰をさすりながら立ち上がると走り出した。  いつの間にかすごい数の男たちが将太を追って走ってくる。 「ええ? マジかー!」  前からも男たちが走ってくる。横の脇道を見ると、そちらからもとても柄の悪そうな連中が走ってくる。  逃げ場を失い、将太は窮した。  車道を見て、そちらに走った。信号待ちで並んでいる車の間を縫っていく。  追ってきた男たちも車道へと走りだす。  将太は車の上に飛び乗り、屋根をボコン、ボコンとへこませながら次から次へと飛び移っていく。  そして大通りの反対側へと渡りきり、狭い路地に入り込むと全力疾走する。  通りのあちこちでバーや飲み屋の派手な看板に灯が灯っている。すでに千鳥足となった酔っ払いたちが大きな声で話しながら歩いていった。 「大夢の野郎、とんでもないバイトを紹介しやがって。借金の三万、踏み倒してやる」  そう一人でぶつぶつ言いながら走っていると、路地の先に先ほどの相撲取りのような大男が現れて前を立ち塞ぐ。 「うえ、何であいつは俺の行き先がわかるんだ」  将太は今来た路地を引き返そうとするが、そちらからは大勢の男たちが迫ってくる。 「くそ!」  叫んで大男に突進した。脇をすり抜けると見せかけて男の股の間に飛び込む。そして起き上がるときに大男の尻を後ろ向きのまま蹴飛ばす。  大男はバランスを崩して前方によろめき、追ってきた男たちの中に倒れ込む。男たちは将棋倒しのようにバタバタと倒れていく。 「よし!」  将太は走り、路地を出ようとすると、その先に男たちがずらっと並んでいた。 「うわ、マジか」  慌てて立ち止まると向きを変え、倒れて起き上がろうとしている男たちを踏みつけて元来た道を戻る。しかし、その先にも男たちがずらりと並んでいた。  咄嗟にまた近くの建物に飛び込む。  そこにも大勢の男たちがいた。  将太はハッとして固まり、動けなくなる。  そこにいる男の何人かが手にして将太に向けているのは拳銃だった。  将太は両手を上げた。もう逃げられない。  奥に連れていかれると、そこはどうも見覚えのある場所だった。  さっき見た気が・・・・  先ほどまでいたガールルの店内だった。あちこち逃げ回った挙句、知らないうちにまた元の場所に戻っていたのだ。  奥のテーブルには、まだ萎れたように俯いている渚がいた。
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