秋の風、君の温もり

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付き合って変わったことといえば、呼び方が"花ちゃん"から"翔太"に変わったことと、深いスキンシップが増えたことくらいだろうか。 今までも友達にしては濃い付き合いをしていたから特段大きな変化はなかったけれど、自分達の関係に"恋人"という肩書きができたことが真澄は嬉しかった。 それだけでよかったはずなのに。 社会人になり、遠距離恋愛が始まると2人のこころの距離も一気に遠くなったように感じた。 新しい環境に馴染むことで精一杯なことも、仕事が忙しいことも分かってる。真澄自身そうだから。 それでも毎日のように朝から晩まで一緒にいた存在が、朝晩の電話やメールだけになる寂しさ。そばにいって支えてあげたいのにできないもどかしさ。土日の休みも予定が合わなくて滅多に会えない苦しさ。 "恋人"の今より、"友達"だった学生時代のほうがよっぽど"恋人"らしかった。 次第に、声が聞きたい、会いたい、抱きしめてほしい、たくさんの欲が真澄の胸の中から顔を出す。 大手の企業に就き、将来を期待されてる翔太は、真澄よりもひどく忙しそうで、邪魔してはいけないという気持ちが勝り、結局たくさんの欲は誰にも届くことなく身を潜めるしかなかった。 月日が経つにつれ、翔太からの連絡や会う機会が徐々に減っていった。 夜に翔太から電話がきても、忙しそうな翔太への恋人としてベストな対応に悩んでる間に、おやすみと言われてしまい、真澄はいつも後悔する。 こんなことなら、もっとちゃんと恋愛しておくべきだった、と。 季節は秋、10月になった。 ー 仕事が忙しくなる。 1週間前の電話で翔太からそう告げられた。 それ以来、メールが2件きただけで真澄のスマートフォンはひどく静かだった。 秋の風は真澄の心を寂しくさせる。 翔太の邪魔をしてはいけない、半年耐えてきた真澄だったけれど、秋の風に背中を押され、翔太に会いに行くことにした。 金曜日、思い切って有休を取り、都内にある翔太の会社へと終業時刻間際に行ってみた。 目立ってはいけないと会社の出入り口が見える少し離れた木陰で待ってると、20時頃になって同年代くらいの男3人を連れた翔太が出てきた。 翔太が出てきたら駆け寄ろうと思っていたものの、周りの目が気になり、様子を見る。 4人の会話は少し離れた真澄にまで届いた。 翔太を除く3人は合コンに行くらしい。 「翔太は合コン絶対参加しないもんな。」という同僚の声に安心したのも束の間。 「翔太は可愛い彼女がいるもんな。」 …かの、じょ? 「えー、花森さん彼女いたんすね!!」 「羨ましいな。」 「そう、清楚系美人だっけ?儚げで守ってあげなくなるような感じらしいよ。」 「まじすか!!花森さんに似合いそう。」 「毎日毎日、休憩の度に彼女に連絡してはニヤニヤして、可愛い、天使、会いたいって惚気てんだぜ。写真見せろって言っても、お前が惚れたら困るからダメなんだってよ。」 「うわ、ベタ惚れじゃないですか。」 理解が追いつかない俺を置いて同僚達は会話を進めていく。 その会話を聞いている翔太は「そんなことまでバラすなよ」と照れるだけで否定はしなかった。 「これからその彼女に会いに行くんだろ?残業つき合わせて悪かったな。気をつけてな。」
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