秋の風、君の温もり

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それから2週間が経った。 落ち着いたら連絡すると言って、未だ連絡はしていない。 もし真澄が連絡を入れたとして、返ってくるのは別れの言葉かもしれないから。 悲しさから目を背けるように真澄は仕事に力を入れた。それは周りに心配されるほどに。 仕事を終え、終電間際の駅のホームに向かう。 冷たい風が身体をすり抜け、真澄の熱を奪っていく。 そして思うことは翔太のことだった。 「もう終わりなのかな。」 翔太がいたら、きっとこの寒さも気にならないくらい暖かくなるだろう。 もうそんな日はこないかもしれないけれど。 「真澄」 聞こえるはずのない愛しい人の声。 気のせいだろうと立ち止まった足をまた進める。 「おい、真澄ってば!」 その直後、左腕を掴まれ振り返る。 そこにはいるはずのない翔太が立っていた。 「…翔太」 「久しぶり。…ごめん、待てなくて。会いにきちゃった。」 「…えっと。あの、」 突然のことに言葉が出てこない。おろおろと狼狽える真澄に翔太が問いかける。 「ここじゃ目立つから真澄の家に行っていい?」 単身者向けの1Kのアパート。 何度か翔太も来ていて、狭いけれど翔太が近くに感じられるこの部屋が真澄は好きだった。 今はその狭さが辛い。翔太と向き合わなければならないから。 ソファに2人並んで腰掛ける。 「突然きてごめんな。」 沈黙を破ったのは翔太だった。 「この前連絡した時、いつもと様子が違ったし、真澄から連絡するって言ってたのにこないから心配になって。」 悲痛な表情の翔太をみて、彼に心配させていたのだと知り、なんて自分本位だったのだろうと後悔した。 「…ごめん。」 「それはどういうごめん?」 翔太に心配かけてここまで来させてしまったこと。 翔太が向き合おうとしてるのに逃げてること。 翔太と彼女の時間を減らさせてること。 翔太を好きになってしまったこと。 翔太へのごめんが真澄の頭を詰め尽くす。 「真澄は…もう俺と付き合うの嫌になった?」 「え?」 「俺、真澄が初恋だったから。真澄に振り向いてほしくて好かれるようにって分からないなりに頑張ってさ。真澄にずっと一緒にいたい、好きだって言ってもらえて嬉しくて。正直浮かれてた。」 …初恋?俺が? いつも太陽みたいに隣で笑っていた翔太がそんな感情を抱いてるようには見えなかった。 「真澄と離れてからずっと考えてたんだ。いつも連絡するのもデートに誘うのも俺からで、真澄から連絡くることも誘われることもなかったなって。それが真澄なんだって思ってたし嫌じゃなかったけれど、真澄は本当は嫌だったんじゃないかって「それは違う。」 遮るように言葉を重ねる。 「…それは違うよ。俺も…俺も翔太が初めて好きになった人だったから。どうしていいのか分からなくて。俺と違って翔太は友達も多いし、誘って断られたらどうしようとか、困らせたらどうしようとか、愛想尽かして嫌われたらどうしようとか。自信がなくて自分から何もできなかった。」 「…そっか。真澄が嫌だったわけじゃないならよかった。でも色々悩ませてたことに気付けなくてごめん。」 そう言った翔太は、少し眉を下げて苦しそうな表情を浮かべていた。
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