秋の風、君の温もり

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「じゃあどうして連絡くれなかった?この前の出張で何かあった?」 出張?と一瞬考え、嘘をついたことを思い出し慌てて取り繕う。 「え、あ、えっと、ただ仕事が忙しくて。出張は関係ないし。」 「…そっか。」 そう言ったきり、翔太は俯いてしまった。嘘だとばれただろうか。 本題を避けるように、会話をかわし、軽く夕食を取ることにした。 いつもならもっと話しかけてくれるのに、普段と違う様子の翔太に真澄は怖くなった。 翔太の初恋宣言に浮かれていたけれど、本当は違う言葉を告げるためにここまできたはずだ。別れ話もしくは彼女の報告をするために。 自分が心配かけたせいで切り出しにくいのかもしれない、と真澄は思った。 食事を終え、ソファに戻る。 真澄は軽く深呼吸をし、質問した。 「翔太はさ、どういう女の子が好み?」 「…は?」 「あるじゃん、年上年下とか。清楚系とか、かっこいい系とか、ないのそういうの?」 全然気にしませんよ、というように余裕を感じさせる為、真澄は目の前に置かれたコーヒーに口をつける。 「…どういうつもりで聞いてんの?」 いつもより低い翔太の声に怖くなる。 「気になっただけ。翔太が将来…結婚するような人ってどんな人かなって。」 自分で言ってて涙が込み上げてくる。我慢しろ。ここで泣いたら翔太が本当のことを言えなくなる。震えた声に気付いただろうか。 「…あのさ、俺、真澄が初恋って言ったよな?真澄が好きだって。」 明らかに不機嫌な顔でこちらを見る翔太。 「『当時は』でしょ。今は清楚系の天使が好きなんだろ。」 「はあ?」 しらを切るつもりなのだろうか? 「とぼけるなよ。この前言ってた。清楚系美人で儚げで守ってあげなくなるような彼女がいるって。毎日、職場でスマホを見てるって!」 余計なことを言ってしまった。出張だって言ったばかりなのに。 そう気付いたのは全て言い切ったあとだった。 翔太は何度か瞬きをした後、一気に顔を赤くする。 露骨に赤くする翔太に「やっぱりそうか」と呟く。 「ちょっと待って。なんで、それを真澄が知ってるの?」 「電話もらった日、翔太の会社の前まで行ってた。その時、同僚?っぽい人と話してるの聞いたんだ。ごめん。」 翔太は理解が追いついてないように目を瞬き、十分に間をとってから驚いた。 「あの日は関西出張だったんだろ?」 「出張は嘘だよ、ごめん。最近連絡の頻度も少なくて不安になって…翔太の顔だけでも見たかった。」 「声をかけてくれたら…」 「彼女いるって話に翔太は否定しないし、あのあと彼女に会いに行くって言ってたし。俺は振られるんだと思って。」 「違うよ真澄。彼女って真澄のことだよ。」 「…え?」 「あいつらに恋人がいるとは言ったけど、勝手に彼女って勘違いしてるだけ。あいつらのこと信用してないわけじゃないけど、わざわざ彼氏だって訂正しなくてもいいかなと思って。そのせいで不安にさせたんだよな、ごめん。」 俺のこと信じてほしい、翔太は真澄の肩を掴み、苦しそうに強い眼差しで見つめてくる。 彼女って俺のこと? ー 清楚系美人だっけ?儚げで守ってあげなくなるような感じらしいよ。 ー スマホ見てはニヤニヤして、可愛い、天使、会いたいって惚気てんだぜ。 あの日の同僚らしき男の声が頭のなかに流れてくる。 「俺、清楚系でも儚げでも可愛くもないよ…」 「そんなことない!!真澄は清潔感があって爽やかでかっこいいし、落ち着いていて穏やかなところが一緒にいて居心地がいいし、俺に向ける笑顔が可愛くて愛おしくて、ずっとその笑顔を守りたいって思うくらい真澄は素敵な人だよ。」 「そんな…恥ずかしいよ。」 「俺は恥ずかしくないよ、本当のことだから。真澄にちゃんと俺の気持ち伝わるまで言うよ。」 真剣な目で見つめてくる翔太に真澄は本気で言ってるのだと理解し、赤い顔をさらに赤く染めた。 「そんなふうに赤くなって照れるところも大好きだよ。」 右頬に柔らかくてあたたかい唇が触れる。 「そんな顔、俺以外の誰にも見せないで。」
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