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「もう終わりなのかな。」
終電間際の閑散とした駅のホームで、藤野真澄は一人つぶやく。
東北の夜は10月にしてすでに肌寒くて、真澄のため息を冷たい風が運んでいった。
恋人である花森翔太との出会いは4年前。
真澄と翔太は大学1年生。
下期の選択科目授業の初回日だった。
真澄が講義室の中間よりも後ろ側の席で教科書やノートを広げていると、隣から「あっ!!」という驚きの声があがり 反射的に隣の男に目を向けた。
「リュックに付けてるやつ、ゆるキャラの明太子おじさんだよね?見て、俺とお揃い!!」
そう興奮気味に声をかけてきたのが翔太だった。
翔太が見せてきたペンケースには真澄と同じ明太子にゆるい表情の顔が描かれたマスコットが揺れていた。
「えっと、高校の修学旅行で九州に行った時に買ったんだ。」
「そうなんだ。この顔、きもかわいいよな。まさか上京して早々、地元のマイナーゆるキャラを見るとは思わなかったよ。」
翔太は九州出身で、上京するときにホームシック対策として地元のゆるキャラマスコットを身につけていた。
同性の真澄から見ても長身でスポーツをやっていそうな体格の爽やかなイケメンな彼が、これがあるから寂しくないんだよねと少し照れながらゆるキャラ片手に言うものだからちょっと意外で。
翔太に興味を持った真澄は、ふふふと笑ってから名乗った。
「俺、藤野真澄。名前、なんて言うの?」
「俺は花森翔太。花ちゃんって呼んで。よろしくね。」
「花ちゃん。ははは。可愛い。」
同じ科目を取る友達がいなかった真澄にとって、第一印象を良い意味で裏切る翔太と仲良くなるのは時間の問題で。2人はあっという間に仲良くなっていった。
話してみると、真澄と翔太は共通点が多かった。
食べ物は甘いものが好き。女子がSNSに載せたくなるようなお洒落なカフェに2人で行った秋。
冬よりも夏が好き。
寒いとなんだか寂しくて、人肌が恋しくなるから。
でも、俺には真澄が、真澄には俺がいるから寒くないな。なんて冗談言って冬を乗り越えた。
花粉症が辛い春。真っ赤に腫れあがった瞼を見て、互いに笑い合った。この時期だけコンタクトから眼鏡にする翔太がかっこよかった。
音楽は90年代バンドが好き。
やっぱり音楽はCDだよなと言って、新曲の発売日には一緒にCDを買いにでかけた。夏は好きなアーティストが出る野外フェスに行った。次は単独ライブ行こうよ、と約束までしてある。
気づけば、ほとんどの時間を2人で過ごした。
好きな物を食べて、好きなことで盛り上がって、そばで笑い合って。
真澄自身、人見知り気味で周りからちょっと距離を置かれていることは自覚している。
明るくて気さくで男女問わず人気な翔太を独り占めしていると、周りの視線を集めてしまうことも気付いていた。
何度か「俺といつも一緒だけど、大丈夫?」と翔太に聞いたことがある。
でも決まって「俺が一緒にいたいからいるの、真澄は困る?」と言って大きな身体をシュンとさせるから、真澄は嬉しかった。
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