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すれ違う、想い
眼前に広がる桜花を目にして、野中夏美は地面へ視線を落とした。嫌がる夏美を嘲笑うように、巻き上がった褪紅色の風が全身を包み込み、散り降る花が責めるようにつき纏う。
夏美は肩についた花びらを睨みつけ、苛つくように払い除けた。この反応にさえ苛立ちが募り、幼馴染みだった榎木美桜のことを思い出して、自身に幻滅してしまう。
小さなころは、透き通る春の青空と、淡い薄紅の風色が好きだった。
夏に生まれたからという理由で『夏美』と名づけられたと知り、春に近くて遠い季節に生まれたことを誕生日のたびに嘆いていた。氏名を書き記すとき、そして新たな春が巡り来るたびに、忸怩たる想いに駆られる。
夏美と美桜は幼馴染みだった。夏美は美桜の名前を羨ましく思い、対して美桜は照りつける太陽の陽射しが眩しい夏が好きで、夏美の名前を羨ましく思っていた。
同じ想いを抱くふたりが仲よくなるには時間はかからなかった。それぞれが『桜』と『夏』の文字が入った名字を持つ家へ嫁げば叶うかも知れない……そんな夢想に希望を見出していた。世の中の仕組みがだんだんわかって来るころには、ただの子どもの幻想だったと思うようになった。
ふたりは同じ中学へ通うようになり、その友情は永遠に続くものだとふたりとも信じて疑わなかった。それを現すように中学時代は常にふたりは一緒で、お互いが離れて学校生活を送るとは微塵も考えていなかった。
夏美は、美桜も自分と同じ高校を目指すと思い込んでいて、進路相談が始まるころに志望校が異なっていたのを初めて知った。
中学三年に上がってから美桜は学校に遅刻したり、早退や休むことが多くなっていた。クラスが別れたこともあり、進路について話し合うこともなく、どうにも気まずい感じがして、どちらともなく距離を置くようになった。
それぞれ、別々の学校へ合否発表を見に行くことに違和感はあったものの、それでもお互いが志望校へ合格したこと知り、互いの合格を祝福し合うことで、離れてしまった心を再び通わせることができると信じ、かすかな希望を抱いていた。
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