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ふたりの合格を祝し、一緒に街へ出かけ、高校で使う文具購入、カフェやカラオケなどで一緒に過ごす約束をした。
当日、夏美は少し早めに待ち合わせ場所である駅のバスロータリー前に着いた。風はまだ冷たいが、降り注ぐ陽射しは暖かく、夏美は晴れ渡る青空と風に舞う桜花のさざめきを眺め、美桜が来るのを待った。
待ち合わせの時間を過ぎ、十五分……三十分と経過したが、美桜は一向に姿を現さない。トークアプリにも通知はなかった。四十五分を過ぎるころ、これほど遅れるのはおかしいと夏美は思い、スマートフォンを取り出してトークアプリで連絡を送る。すると美桜から『もうすぐ着く』というメッセージと謝罪を示すスタンプが送られて来た。通知を見て夏美はほっと息を吐き、了解のスタンプを送信する。しかし、そのスタンプに既読表示がつかないのが気になった。
それからさらに三十分ほど経過しても、連絡も寄越さず、姿を見せない美桜に、夏美は苛立ちを感じ始めていた。そして待ち合わせの時間から遅れること約一時間半後に、美桜は駅から出て来た。
「夏美、遅れちゃってごめん。ちょっと用事が立て込んじゃって……」
悪びれる様子のない美桜の言葉に、夏美は頭に血が昇るのを感じた。そしてその感情のまま、いいたくもない罵声が口をついて出てしまうのを止められなかった。一度口に出すと、堰を切ったようように感情的な暴言が飛び出してしまう。
一方の美桜は下唇をかんで俯き、地面を見つめたままだった。明らかにいい過ぎていることを認識して、夏美は自己嫌悪に陥っていたが、吐き出してしまった言葉はもう飲み込むことはできなかった。
答えが返って来ない。心なしか美桜は震えているように見えた。罪悪感に駆られたが、夏美は美桜に踵を返すと、駅の方へと向かって歩いて行った。美桜も追いかけて来ることはなかった。
この日を境に、ふたりは顔を合わせることはなくなった。
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