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高校での一年間はあっという間に過ぎ去って行った。その年の桜の開花はやや遅めだったったが、いつかの青空のように晴れ渡り、桜のひとひらが風に乗って飛んで来た。心が跳ねるように疼くが、夏美は意識的に視線を逸らす。
学校は休みだったが、夏美は部活の練習のため、学校へ向かっていた。卒業式では吹奏楽部が君が代や校歌などの演奏を行う。今日は全パートが一堂に会し、合奏して調整を行える最終日であった。
スマートフォンの時計をチラ見しながら、寝過ごしてしまったことを少し悔いる。
あんな形で絶交宣言をしてしまった手前、美桜の家の前を通るのは憚られるような気がして、夏美は普段の通学では回り道をして駅へ向かっていた。合奏の時間が迫っており、この道が駅へ一番早くつける道なので、やむを得ず選んだ。
美桜の家の前へ近づくと、玄関先に人が集まっているのが見えた。そこにいる人々は黒い礼服姿で、門の道路には黒いバンが止まっていることに夏美は気づいた。美桜の家で不幸でもあったのかと訝しむ。ぼんやりと美桜の家族構成が思い出され、美桜の祖母の顔が脳裡を掠めた。
まさに出棺のときのようで、黒いバン……霊柩車の後部ドアが開かれ、家の玄関から棺が運び出されて来る。美桜の祖母が棺にしがみつくようにして、納棺されているであろう人物の名を叫び、美桜の母に肩を預けて泣き崩れた。
夏美は、祖母の叫んだその名に自身の耳を疑った。
自身でも知らぬうちに、衝動的に夏美は駆け出していた。喪服に身を包み、祖母を抱える美桜の母親へ、ふらふらと近づいて行った。
きっとあの日、美桜はその話しをしたかったのだと夏美は思った。後悔の波が心の中へと押し寄せる。胸が焦げ、飲み込んだ息に喉がざらつくような痛みが治らない。
美桜の母や祖母となにか言葉を交わしていたはずだが、記憶は曖昧で、なにを話していたかはよく覚えていなかった。
やがて、茫然と立ち竦む夏美を残し、美桜を納めた棺を載せた霊柩車が、クラクションを鳴らして出発した。親族たちもマイクロバスへ乗り込み、火葬場へと向かう霊柩車を追走して行った。
マイクロバスの巻き上げた風が、桜の花弁を散らす。そのひとひらが、夏美の髪へ吸いつくように絡みついた。
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