沈む、想い

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沈む、想い

 今年の春も、やや遅い開花であったが、霊園に植えられたどの桜樹にも見事な薄い石竹(せきちく)色の花びらが咲き誇っていた。しかし、花盛りから舞い散る(こぼ)れ桜が視界に入るたびに、夏美の心は暗く沈み込んで行った。  美桜の死を未だ受け入れることができずにいたが、それでも命日には墓参りに行くと決めていた。  霊園へと足を踏み入れると、夏美の心を苛む桜の花びらが押し寄せて来た。白んだ浅紅(せんこう)色は美桜が死んだという事実と記憶を甦らせる。一方的に暴言をぶつけて去ったという罪悪感が、さらに夏美の心を圧し潰す。  墓石の前にはたくさんの菊や薄紅色の花が供えられていた。美桜は百合の花が好きだったので、夏美は持参した百合の花を墓前に添え、線香を焚いて線香皿へ置く。白い煙が墓前に揺蕩(たゆた)うのを確認して、手を合わせ目を(つむ)る。  夏美は、墓に眠る美桜に向けて謝罪の言葉を述べた。すらすらとは出て来なかったが、それでも声として、はっきりと口に出したかったのだ。 「ごめんね、美桜……わたし、ちゃんと話しを聞いておけば……ううん、あのとき聞かなきゃ、いけなかったんだ……」  夏美の謝意を運ぶかのように、徒桜(あだざくら)(さら)った風が、青空へ舞い広がって行った。  不意に、誰かが霊園の敷石を踏み歩く音が鳴った。
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