沈む、想い

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 足音は迷うことなく、夏美のいる榎木家の墓へと向かって来る。供花の束を下に向けて右手で持ち、供物を包んでいる風呂敷包みを左手に下げた人影は、美桜が通っていた日奈津(ひなつ)学園高校の制服を着ている男子生徒だった。夏美に気づくと、男子生徒は少し緊張気味に挨拶をして来た。 「どうも……。榎木さんのご遺族の方ですか?」 「……いえ。美桜とは中学までの……友だちです……」  そういって夏美は墓前から離れ、その男子生徒に場所を明け渡す。男子生徒は得心した表情へと変わり、はにかんだ薄い笑顔で夏美に(たず)ねた。 「ああ……もしかして野中夏美さん、ですか?」  自分の名を知られていることに夏美は軽く驚き、表情が固くなりつつも返事をした。 「は、はい。そうです……」 「そんなに警戒しないでください。僕は吉野(よしの)(ゆう)。榎木さんと同じ日奈津学園高校の生徒です」 「えっと……もしかして、美桜の……」  夏美はその可能性はありそうだと思っていた。細身で長身、髪は短めに揃え、くっきりとした眉、通った鼻筋に精悍さを(たた)えた顔立ちだが、コントラルトの声質と相まって女の子といっても差し支えがないくらいに美しく整っていた。結は少し表情を曇らせ、伏目がちに夏美の言葉を(さえぎ)るように否定する。 「いえ。でも榎木さんとは、よい友だちでいれたとは思います」 「そうでしたか……」  美桜の性格を考えれば、高校で友だちができるのは当たり前のことだと理解できる。明るくて人当たりがよく、誰にも気安く、そして人好きのする女の子だった。  (ひるがえ)って自分は望んだ高校に入れたが、親友と呼べるような存在ははいなかった。クラスメイトとの仲が悪い訳ではないし、仲間はずれにされている訳でもない。だが、美桜に代わる人物はおらず、内気な性格もあって親交を深めようとも思ったことはない。  美桜は高校で、こうして墓参(ぼさん)してくれる友だちを得てよかったと思う反面、嫉妬にも似た、美桜に取って自分だけが特別な存在ではなかった事実を思い知る。そして、こんな勝手なことを考えてしまう自身に嫌気が差していた。
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