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結は複雑な表情のままで固まってしまった夏美を慮るように、穏やかな口調で美桜について自身の感じていた想いを訥々と話し始めた。
「榎木さんは野中さんのことを親友以上の存在だといっていました。僕はあなたの話しを聞くたびに、心が乱され……嫉妬めいた気持ちを抱きました。僕は野中さんの代わりにはなれない、そんなことばかり考えていた自分が浅はかな存在にしか感じられず、榎木さんとの仲が深まる喜びと同時に、侘しさを感じていました」
結の語る美桜への切ない恋慕に夏美は共感を抱いた。同時に夏美は、一方的に詰って、怒鳴って、駅から去ってしまった自分を美桜はどう思っていたのかが気になっていた。
表情から夏美の心痛を察したのか、結は口をつぐみ、無言で墓前に花を手向け、風呂敷包みを解く。中身は箱に詰められた長野県産のシャインマスカットだった。そういえば美桜はマスカットやぶどうなど、夏に旬となる果物が好きだった、と夏美はぼんやりと思い出した。
線香に続けて供物のシャインマスカットを供え、結は墓に向かって手を合わせる。夏美は居心地の悪さを感じていたが、なぜか結から目を逸らせず、黙ってその所作を見つめていた。
夏美に向き直り、結がいった。
「野中さん。このあと用事がなければ一緒に榎木さんの家へ行って見ませんか? 実は榎木さんのいい遺した言葉で、叶うならあなたと共に榎木さんのお母さんを訪ねてほしい、と頼まれていたんです。僕にもその仔細はわかりませんが……榎木さんがなにを想い、願っていたかを知るのは、僕たち遺されたものの役目でもあると思うのです」
唐突な申し出に、夏美は少し戸惑った。しかし結の表情は真剣そのもので、悲しみに向き合おうとする決意を感じられた。自分も美桜の死に向き合わなければならない……そう思い、夏美は静かに頷き、同意した。
「はい。今もその自信はないですが……」
「よかった。断られたらどうしようかと思っていました。ご一緒してくれて心強いです。では、行きましょうか」
結に促されるように墓前を手早く片づける。道中では悔恨の念に何度も襲われながらも、夏美は美桜の家へと向かった。
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