変わらぬ、想い

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変わらぬ、想い

 美桜の母は夏美と結の訪問に喜び、家の中へ招き入れてくれた。  懐かしさを感じて、夏美は昔と変わらない居間を見回す。違っていたのは、居間のシェルフの上には美桜が写った写真立てがいくつも置かれていた。 「あ、そうだ。夏美ちゃん、吉野さん。もしよければ美桜にお線香でもあげてくれたら、あの子、喜んでくれると思うの」  美桜の母親はふたりを仏間へと案内する。廊下の襖を開くと、たくさんの花で飾られ、お供物が積まれた仏壇が目に入る。  仏壇の前に正座し、線香を立て、夏美は手を合わせて美桜への謝罪を心の中で呟く。仏壇の中央に飾られた美桜の遺影はカメラに向かい、はしゃぐように眩しく明るい笑顔を見せていた。 「これって、中三の修学旅行のときの……」  美桜の母が微笑み、答えた。 「ええ。とびきりの笑顔でしょう。高校に入ってからの写真では、あの子、あまり笑ってなかったから……」  自分のせいだと夏美は悔いながら、結に座を譲る。結もまた、線香を立て、手を合わせて美桜の冥福を祈る。正座したまま後ろへ引くと、美桜の母に告げた。 「お母さん。榎木さんの遺したものを、野中さんに見せてあげてくれませんか」  美桜の母は神妙に頷き、静かに仏間から立ち去った。そしてどこからかA4サイズの封筒を持って仏間へと戻って来た。 「亡くなる前に、夏美ちゃんに渡してほしいと美桜から預かったものです」  封筒を開くと、中には二つ折りにされた便箋の束と、SDカードが入っていた。
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