変わらぬ、想い

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 SDカードを自分の端末に差し込んで、入っていた動画ファイルを再生する。  動画は経鼻カニューレを鼻に差し込まれ、腕のあちこちが計測器へ繋がるコードや点滴の管に覆われた美桜の姿、周りには様々なモニタ機器などが映り込む。その様子から美桜の状態が悪いことを悟り、夏美は息を飲んだ。 『こんなカッコでごめんね、夏美。でもこの動画を見てるってことは、わたし、死んじゃったんだね』  美桜が激しく咳き込む。しかしカメラに向かって気丈にも笑顔を作って言葉を続ける。 『……けほっ……いつもこんな……感じ。いいたかったことは紙に書いておくね。あんな別れ方になったけど、夏美に出逢えてよかった』  再度、画面の美桜が咳き込み始めた。夏美は喉から絞り出すように懇願の声を上げる 「美桜、無茶しないで! ね、お願い! わたしのためにっ……!」  なんとか呼吸を整えた美桜は笑顔を作り、画面に向かって続ける。 『ふふっ……夏美のことだから、わたしのことを思って無茶しないで、とかいってるんでしょ? うれしいな。ありがとう』  美桜の感謝の言葉に、夏美の鼓動が一際大きく跳ね、動画の映像がぼやけて滲む。 『死にたくなんか……ないよ。ちゃんと謝ってないのに。もっと生きたい。やだよ。怖いよ……』  動画に映っていると本人は思っていなかったのだろう、と夏美は思った。美桜の切に願う生への渇望に込み上げて来る嗚咽を堪える。  美桜の母も再び襲った悲しみに顔を伏せ、涙していた。夏美は折り畳まれた便箋を広げる。達筆だった美桜の整然と並ぶ美しい文字に、ところどころ歪んだ箇所があった。美桜が苦痛と咳を堪えて書いた文字だと容易に想像がついた。
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