変わらぬ、想い

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『夏美へ。あなたがこれを読むとき、わたしはもういないんだね。夏美と一緒に過ごした日々をわたしは忘れない。本当は同じ高校に行って、一緒に卒業してその先の未来、人生を一緒に過ごしたかった。病気のせいでその願いは叶わなかった。病院に近い学校を選んでしまったから。  でも、そのおかげで結と出逢えた。自分も辛いのに、こんなわたしに寄り添ってくれた。  本当はきちんと結を紹介したかったんだ。彼は自分の心の性別は男の子だけど、身体は女の子。わたしは彼を受け入れてくれる社会を作る、そういう仕事をしたいと思ってた。憲法ではみんな平等なのに、法律はそれを認めていない。だからわたしがそれを変えようって考えてた。難しい問題だし、わたしの生命の期限も迫っているからできる訳ないのに、ね。  叶うなら、ふたりには生き辛さを抱える人たちを支えてあげられる社会を目指してほしい。もし、わたしを憐れに思うなら、これからの人たちためによりよい未来を創ってほしい。  自分に都合のいいことだけ書いてる自覚はあるよ。夏美と、結の気持ちをまったく無視してるね。  わたしは結の想いを受け入れてあげられなかった。もうすぐ死んじゃうから。先のない未来に結を連れて行くような無責任なことはできないと思ったの。ごめんね、結。  夏美。大好きだよ。あなたのことを愛していました。愛してる。この想いを抱えたまま死ぬのはイヤだった。こんなこと書かれても、困惑するだろうね。だけど、死ぬまで、死ぬ間際まで、死んでもきっと、ずっと愛してる』  便箋にいくつもの水たまりが生まれる。美桜の綴った痕跡を滲ませてしまわないよう、夏美は目元を拭ったが、滴は止まらない。 「わたしだって……今も、美桜が大好きだよ。今でも、この先もずっと……」  声を飲み込み、夏美は美桜への愛しさと、その愛の大きさを感じた。便箋を胸に押しつけるように抱き締め、美桜の想いが零れ落ちないようにできるだけ静かに泣いた。
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