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 六十を前にして母は初老期認知症を発症した。ときどき家を抜け出してどこかを徘徊する。  あまりに頻繁に徘徊するものだからよく行くところには写真つきの掲示を貼ってもらっていた。「この人をさがしています」の文字とともに母の写真がある。目の前のサービスカウンターの後ろにも貼ってあった。  私ひとりだと母が私を認識しないこともあるので、母を迎えに行くときは必ず娘の真綾を連れていく。  覚えていないが私は、今の真綾くらいの歳の頃、迷子になって大騒ぎになったことがあるようなのだ。  どうも母はその時のことがトラウマになっているらしく、未だに三歳の娘がいなくなる妄想に襲われるようだ。だから私は、当時の私に似た格好をさせた真綾を連れて母を探しに行くのだ。  真綾を真ん中に私と母は三人手をつないで歩いた。  いつまでこんなことが続くのかという不安はある。正直なところ施設に入れることも考えたりする。  しかし、嬉しそうに笑う母と真綾を見ると、もうしばらく頑張ってみようかと思い直すのだった。
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