桜の生贄

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桜の生贄

 桜は我が国のシンボル、春を告げる花として誰もが好きな花だろう。  しかし俺はこの花に対しては複雑な想いを抱いている。  それは我が国が古代からやっている儀式のせいだ。  我が国の桜には特別な力があり、いざというときの砦として存在している。  その力の維持は生命を宿す若き乙女が必要だとか。  若き乙女が何名か生け贄となっているため、桜の特別な力は今も健在だ。  乙女と聞くと誰もが清らかな心を持つ者限定と考えるだろう。  しかしながら生け贄になった者は大火事を起こしたり、国に逆らった犯罪者も含まれているらしい。  まあ、この罪人のおかげで乙女は生け贄の任を降りることができるので胸糞な展開になる確率は低いそうだ。  だが、俺の婚約者は桜を心から愛しているのか生け贄になりたがっている。  だから俺は桜が好きではない。  嫌いと言えないのは我が国の慣習が身に染みているからだ、悲しいことに。  正直時代は神様の時代から人間に時代へと移っていると思う。  しかし、まだ桜に対する信仰は残っていた。  明治から大正というハイカラな時代になっても俺たちの心には大きな桜があるのだ。  どんなに生活が豊かになっても、変わっても人々の不安は変わらない。  だからなのか、桜は残っているのだろう。  俺の婚約者のように、桜を大切にする人がたくさんいるのだ。
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