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「そんな……由美子さんにまで裏切られていたのか……」
佐々木が俺の嫁の名を口にしながら、機械を見つめている。俺からは見えないが、メーターが爆上りしているのだろう。表情も苦しそうだ。決まったか……?
しかし、それ以外になんの変化もなかった。絶望感が閾値を超えなかったようだ。
「……」
「……」
お互い、これ以上相手を絶望させる言葉を持たないというのが雰囲気で分かった。少なくとも、俺はそうだった。
そのとき、またスピーカーが話しだした。
「絶望ゲーム。残り五分。残り五分。時間内に絶望者が出なかった場合は……」
……。そこでスピーカーの機械音声は途切れた。続きが大事だというのに、なんなんだ。
しかし、俺の頭にも佐々木の頭にも、最悪の事態が浮かんだと思う。最悪の事態とは、二人して殺されるのである。
そのあとはもはや茶番だった。
お互い思いつく限りの罵詈雑言を言い合ったが、さっきまでドギツイ内容を言い合っていたので、その程度の言葉で絶望するわけはなかった。
やがてスピーカーが言った。
「絶望ゲーム……終了まであと十秒……九……八……」
俺たちはそれが死へのカウントダウンであるかのような表情で機械音声を聞いていた。
カウントダウンが〇になったら、頭に電流でも流れるのか……。そうだ、こんなもの外せばいい。だめだ、外しても天井が降りてくるじゃないか。俺は恐怖のあまり叫びだしそうになった。
「二……一……。お疲れ様です。では帽子を外して、気を付けてお帰りください。出口は最初の赤い部屋の壁の……」
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