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ぱちぱちと瞬きを繰り返していれば、suiは表情を弛める。あまりにも無防備で柔らかな顔をするものだから、警戒心なんてどこかに消えてしまう。
「春崎くんの下の名前は?」
「……えと、陽です」
「陽……いい名前だね」
自身に馴染ませるように反芻される名前。
生まれたときから一緒だったそれがなんだか特別なものに思えてくる。
僕の名前を何度も繰り返すsuiをじいっと見つめれば、その造形の美しさに惚れ惚れしてしまう。すっと伸びる睫毛が猫目を特徴づけて、透き通るような白い肌は自ら発光していると思わせるほど。
どれだけ見ても飽きないな。
遠慮なく見つめていれば、それに気づいたsuiが首を傾げる。そんな仕草までナチュラルで魅力的に見えるのだから、芸能人というものは人種が違うのだと腑に落ちた。
「ああ、俺の名前言ってなかったね」
「…………」
いや知ってますよ。
そう言い出せる空気ではなくて、僕は黙りこくることしかできなかった。
「深山翠です、ずっと来れなくてごめん」
「え、あ、いや、大丈夫です……」
世間一般には公表されていない名前を簡単に口に出す彼にどきまぎする。
そりゃあ芸名を名乗られても反応に困るけど、本名を知ってしまうのはもっと狼狽えるに決まっているだろう。
吃りながら首を振れば、sui改め深山さんはホッと息を吐いて胸を撫で下ろした。
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