夜の帳が下りたあと

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 彼も僕と同じように感じたのだろうか。  驚いたように目を見張った男は、手に持っていた財布をぽろっと落とす。ちゃんと閉じられていたそれから小銭が溢れてあわや大惨事、なんていうことは免れた。  ――高そうな財布なんだから早く拾わないと。  そちらに意識が持っていかれた僕を引き戻すように、「俺を見ろ」と言わんばかりに彼が僕の手を掴む。ぎゅうっと力が込められて、痛いぐらいだ。それなのに胸の奥はきゅんと鳴いて、触れられたことに喜びを隠せない。  そしてふたりだけの秘密を共有するように、男は甘い声で囁いた。  「きみはオメガ?」  サッと血の気が引いた。  初対面の人に第二の性を聞くのは失礼だって、もう大人なのだからよく知っているはずなのに、どうしても聞かずにはいられなかったらしい。  お前はオメガなのだろう?  答えを聞く前に男の瞳がそう言っていた。サンタクロースを待つ子どものように、ワクワクと目を輝かせて。  番探しでもしているのだろうか。  そう思いついた途端に、心臓がぎゅうっと掴まれたみたいに酷く傷んだ。  春から冬に逆戻りしてしまったかのように、びゅうびゅうと冷たい風が胸の中を通り過ぎていく。  「……僕は、ベータです」  「え、まさかそんな。だってこんなに、」  「すみません、お客様。お会計を」  狼狽える男が身を乗り出す。首筋に顔を近づけてこようとするのを避けて、掴まれていない方の手で離れるようにそっと体を押した。  これ以上話を続けられないよう、強くはないけれどきっぱりとした口調で会計をするように告げる。
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