夜の帳が下りたあと

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 彼はじいっと僕の瞳を見つめた後、渋々僕から手を離し、財布を拾って黒いカードを手渡した。  〜♪  カードを機械に読み込んでいると、スマホが騒ぎ出して店内を賑やかにする。不機嫌に目を細めた彼は画面を確認すると、こちらにも聞こえるほど大きなため息を吐き出して画面をタップした。  「はい……うん、分かってる……はいはい……」  さっき聞いた声とは全然違う、地を這うような低い声。怒っていますと声に書いてあった。  そんな彼に気が引けながらも控えめにカードとレシートを差し出せば、小さく会釈してそれを受け取ってくれた。  通話を繋げたまま、缶ビールを鞄にしまう姿を観察していれば、スマホを耳からぱっと離した男が僕の瞳をまっすぐに見つめて言う。  「……また来ます」  その言葉に何故か凍てついていた心がじんわりと溶ける。表情を弛めた僕を確認した彼はウインクを飛ばして足早に去っていく。その姿はとても様になっていて、アイドルみたいだった。  退屈だったバイトにとんでもない嵐がやってきた。ぽかんと開いた口が塞がらない。  まるでお星さまが落ちてきたみたいな、そんな衝撃。ホットチョコレートのように甘くて落ち着く声が耳に残っている。  僕は目と目が合ったあの瞬間を思い出して頬を弛めながら、身体の奥からしゅわしゅわと何かが湧き上がってくるのを感じていた。
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