夜の帳が下りたあと

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 ……うーん。  どこかで見たことあるような気がするんだよなぁ。あの甘い声だって、最近聞いたような気もする。それも一度きりじゃなくて、何度も。  喉元まで浮かんできている気がするのに、答えはなかなか見つからなくてモヤモヤしてしまう。うんうんと考えながら、僕はゴミ出しをしに外に出た。  どうして自分がそこまでして正解に辿りつこうとしているか分からないけれど、ただ彼が何者なのかを知っておく必要があると思った。  慣れた作業だ。ぱっと手早く済ませて中に戻ろうとしたところで、窓にずらっと貼られたポスターが目に入った。予約受付中の文字が大きく目立つ。コンセプトも世界観も異なるアーティストたちのジャケット写真が集うこの場所は、まるで展覧会。  そろそろ剥がさないといけないものもあるなぁと順番に目で追って、最後の一枚の前でぴたりと足が止まった。  「……あ、」  思わず、気の抜けた声が漏れる。  彼は入口に最も近いそこに鎮座していた。  思っていたよりもずっとすぐそばにいたのだ。  ぐちゃぐちゃに絡まっていた糸が綺麗に解けたような爽快感。答えが見つかってスッキリする。    ヒントは目元だけ。だけどそれでも分かる。本能がこのひとだと告げている。  あんなにバレないように変装していたのに、素顔も名前もこんなに簡単に分かってしまうのがすこしだけおかしくて、かわいいと思った。
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