夜の帳が下りたあと

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 それでも退屈な日常がほんの少し彩られた気がして、僕は余韻に浸りながら店内に戻る。  その瞬間、ふわりと彼の残り香が鼻腔を擽った。柑橘系を感じさせる爽やかなサイダーのような、ずっと嗅いでいたい香り。  さっきはそこまできつい香水をつけているとは感じなかったけれど、高級なものはこんな風に匂いが残るのかもしれない。  僕には縁がないものだからその辺はよくわからないけど、別に不快な香りではない。彼がここにいたと証明しているみたいで、この香りに包まれていることが正直嬉しかった。  じんわりと絶えず湧き上がってくる感情の正体が掴めない。  あったかくて優しくて、愛おしい。ふわふわとした気持ちは落ち着くことがなくて、ぽーっと熱に浮かされたように全く仕事に身が入らないまま、気がつけば勤務終了の時刻になっていた。  いつもは不健康な体を責めるように遠慮なく痛めつけてくる不快な太陽も、今日ばかりは清々しい気分で迎えられる。柔らかな日差しが眩しくて、生きているというのはこんなにも素晴らしいことなのかと実感する。  帰宅後、シャワーを浴びてベッドに転がり込んでも、あの甘い熱を孕んだ眼差しが忘れられない。小さな火種がじんわりと心の中に宿るのを感じた。
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