5-1 素直になれなくて

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5-1 素直になれなくて

内田駿介28歳(再登場) 男とあんなに濃厚なキスをしたのは初めて。 そして、 最後まで何も無かった一夜を過ごしたのもまた初めてだった。 決して駿介は女性的な容姿ではないが、 確かに話し方は少し中性的な感じもする。 がそれは誰にでも同じ。 加えて少年のような体つきは、 俺を虜にする。 しかし、 あれ以来駿介は職場ではそっけない態度をするようになった。 あんなに濃厚なキスをして、 一緒に寝たのに。 確かにそれ以上のことはなかったし、 朝に俺のモノを突っついていたが直には触れてない。 なぜそんな態度なのか俺は気になって仕方ない。 駿介にとっては単純な一夜だったのか、 冷静になってみてその事を後悔してるのか、 何か俺に落ち度があったのか、 いずれにしても確かめずにはいられない。 「ウッチー、ちょっと後でいいか?」 「はい」 俺は終業し駿介の手が空くのを待っていた。 「どうしました〜?」 「何か最近避けてる?」 「別に〜」 「何か態度が変」 「そうかなぁ?」 「勘違い?意識しすぎ?」 「う〜ん…」 「こないだの?」 「う〜ん…」 「何て言ったらいいか…」 「気にしなくていいよ」 「悪ぃ…」 俺は俯き加減に下を向いていると、 駿介は下から俺を覗きこみ、 ニコッと笑った。 そして、 下から軽くキスをしてきた。 「見つかったらどうすんの?」 「誰も見てないよ〜」 「にしても…」 「光輝くん、臆病なんだね」 「そんな事は…」 「わかった!これから光輝くんって会社でも普通に呼ぶ」 「不自然じゃない?」 「じゃあ、駿介って呼べば?」 「恥ずかしいな…」 「慣れて!」 「うん…」 再び駿介は俺に軽くキスをして持ち場に戻っていった。 今までには無い、 表現しにくい感覚が残った。 自問自答を繰り返しても答えは出ない。 やっぱりちゃんと確かめないといけない。 数日後、 俺は駿介を誘い食事に行った。 仕事関連の話だけをして、 帰る時間になる。 「ここの飯美味かったな!」 「良く見つけたね〜光輝くん食いしん坊なだけあるね」 「結構食べ歩いてるからさ」 「食欲旺盛な人は、あっちもお盛んって言うんだけど…」 「俺は…どうだろ?笑」 「あんまり無さそう!笑」 「昔ほどではないけど、まだ萎びてはいないぞ」 「朝はめちゃくちゃ元気だったもんね!笑」 「あれはな、無意識なの」 「わかってるよ!男だから!笑」 「帰ろ」 「光輝くん、デートしよ」 「デート?」 「食後の散歩!」 「そういう事ね!」 店を出て歩き出したものの、 デートと言われてしまったせいか会話が見つからない。 駿介も何も話さない。 デートしようなんて言ってきた割には何のリアクションもない。 なんだかつまらなくなった。 じゃれあいながら、 抱きついたりとか、 手を繋いだりとか、 てっきり駿介からアプローチが来るもんだと期待してた。 なのにただ黙って歩くだけ。 俺は自然と早歩きになる。 駿介はいつの間にか10メートルくらい後ろにいた。 俺はその姿をチラッと見て、 振り向かずに右手を後ろに出して足を止め、 叫んだ。 「駿介!」 駆け足になる音が聞こえる。 そして力強く俺の右手を握られた。 「なんで…」 「何?」 「なんで1人で…」 「だって…」 「だって?」 「寂しかった」 「俺だって…」 「素直じゃないんだね」 「だって…どうしていいか…」 「じゃあギュってしてよ!」 通行人がいるかどうかなんて視界に入らない。 軽い月明かりの下で、 俺は駿介を抱きしめ、 頭を撫でるしか出来なかった。 「行っていい?」 「いいよ」
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