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3-1 繁華街での再会
③佐々木涼21歳(再登場)
涼は前回登場したので経緯は省く。
涼とは半年ぶりにばったりと夜の街で会った。
相変わらずだらしない感じはあったが、
あの頃のような挑戦的で反発的な目は形を潜めていた。
「こんばんは、お疲れ様です」
突然の声に一瞬ためらった。
「久しぶりだな。元気か?」
「はい、三井さんも変わらないですね」
「まぁな。急に辞めるから気になってたぞ」
「母が入院してしまって」
「そうだったのか…」
俺は涼の退職に下衆な理由を想像していた事を恥じた。
「今は?」
「もう良くなりました」
「よかったな」
「はい」
柔らかい笑顔をしている。
もしかすると、
あの時は涼なりに生活が乱れていたのかもしれない。
「今日は予定でも?」
「特にないです」
「飯一緒に食うか?出すから」
よもやあの時の事は忘れてはいないだろう。
せめてもの償いをしたかった。
「いいんですか?」
「まぁ…色々あったし…」
「ですね…」
「奢らせてくれ」
「はい」
2人で焼肉を食べた。
あの事は一切話題にはしなかった。
涼があの時大変な状況だったこと、
それからの事、
現状を聞いた。
今は他の派遣会社で真面目に仕事してるのが伺えた。
「もっと食っていいぞ」
「もう無理です!笑」
「若いのに少食だな」
「この後もあるし…」
店を出て、繁華街を歩きながら駅に向かう途中だった。
涼はふいに言った。
「三井さん、こっち来て」
「ん?」
一人先に細い路地裏を歩いていく。
人ひとりがすれ違うのがやっとくらいの路地裏。
というか、
ただの隙間みたいな道だ。
突然止まって、涼は言った。
「三井さん…帰りたくない…」
「何?」
「また…して…」
「う〜ん…」
「嫌ですか?」
「そういうわけじゃないけど」
「そうですか…」
「あの時はさ…俺…」
「興奮しました…」
「そうなのか?」
「はい」
「他でもしたの?」
「はい」
「何人も?」
「色々しました」
「そうなんだ…」
俺は罪悪感に苛まれた。
言うなれば、
欲望の捌け口にしたし、
それも立場を利用して。
「でも、気持ちよくなかった」
「そうだろうな…」
「他の人は…気持ちよくない」
「じゃあ何で?」
「三井さんに…されてると思いながら…」
「いや…俺…悪かった」
「最初は怖かったけど…わかったんです…」
聞けばあの後、
色んな行きずりがあり、
同じような行為でもひどい扱いをされたらしい。
「俺が言えたことじゃないけど、相手考えないと…」
「だから…三井さんと…もう一回…」
そう言って、
涼は俺に抱きついた。
あの時とは違って愛おしさのような、
同情のような複雑な思いになった。
「いいのか?怖くないか?」
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