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ストーカー
「他の人間にはない何か特別なものがあったらいいな。」そう考えたことはないだろうか。魔法だったり、超能力などは流石に高校生ともなれば、不可能なことで、妄想であることは理解することができる。しかし、特別な才能や他の人にはない実績など、現実的な範囲でもなにか1つでもいいから欲しいことだろう。嘘をついたことがない、人生で笑ったことがないなど、どんなに些細で小さいことでさも心の中では特別求めてしまっている。なぜなら、人間は特別を求めるいきものだから。逆に、プライドのような小さな特別でも持っている者はそれが壊されそうになった時、どのように行動するかは、想像に容易い。
学校が終わり湊は帰宅をしようと教科書を整理していると、教科書の間にサンドイッチされていた。その手紙は女子が告白の時に使う形状をしていたが、トラ柄を中心としたデザインでハートではなく〆というシールで止められているいかにもセンスの悪いやつが頑張って選んだような見た目をしていた。その手紙を手に取り開けようとするが途中で手を止める。「いくらなんでもセンスが最悪すぎるだろ。しかも、友達のいない僕にこんなことをするのは罰ゲームかいじめかのどちらかだろ。いや、待てよ、僕には思い当たる節があるというか友達がいないからこそ確信がある。でも、今回はもしかしたら罰ゲーム説あるな……」人前で手紙を開けるのと大衆の前にダサい手紙をさらすのが嫌だったので、持ち帰ってから読むことを決める。
帰宅後、リビングで荷物を降ろすと同時に、何の音もしないのは寂しいと思っただろうか。無意識のうちにテレビをつけていた湊はニュースを横目に見ながら、バックの中からセンスの悪い手紙を取り出す。しかし、湊の耳は不思議とテレビの内容に気を取られていた。
「一昨日、女子高生をストーカーしていた男性を逮捕しました。容疑者は女子高生の後をつけて、被害者の家を特定し、相手を不快にするような贈り物をしていた模様です。また、ストーカー被害が近年全国的に増えている模様です。もしも被害にあったときは…………」
僕的には理解できないし、許しがたいな。相手を深いにしてまでストーカーをする犯罪者は。そんな奴らは危ないから即座に豚箱行き、かわいい警察官に結100たたきの刑で決まりだ。いや、それは一部のドМが興奮するから。ってそんなことはどうでもいい。もしも珠希がストーカー被害にあったら、その時は僕が許さない。
湊はテレビに気を取られていたが、本来の主目的である手紙の方に意識を向け直す。そして、手紙にはいつもの場所で八時に集合とだけ書いていた。行くのめんどくさいな、一応念のために手紙の裏側を見ると約束だからな。湊は心の帯を締める。
黄色くてかわいらしい家ドアをガチャッと開く音。そこから出てくるのは、金色の髪の毛の美女でなければ、白髪のイケメンでもない。食べ物を表現に使って悪いが、ひじきに似た色合いの黒髪で日本人にしては豆腐のように白く透き通るような肌。中性的な顔立ちはキッチリ整っていて、クラスでは5番目くらいにモテそうな少年であった。湊の紹介かっこ二回目にして前回より詳しいバージョンが 終了する。そして彼は家の目の前にある道路の反対側に渡ろうとするも、思わず足を止めて右手側に見える青い屋根がチャームポイントの彼女の家に目が留まる。さらには、口角を緩めて再び歩みを始める。歩みを進め十秒ほど、右を見れば田舎で最も怖いといっても過言でない薄暗い木々たちが立ち並び、カサカサと音がしゆっくりと風に揺られている。まさに、肝試しにぴったりの雰囲気である。
「彼女とこういう場所に来れば手を繋いでもらえるかな」
まあ、雰囲気があるのは、右側だけで、反対を見れば怖さを中和するように住宅地が並ぶ。その中でも湊はある青色をしたおしゃれな家にだけ目が留まる。さらには、思わず声をもらしてしまう。
「ここがゴールじゃダメなんですかねぇ……」
周りに誰の気配も感じないせいか、湊は嫌そうな顔と本音をまったく隠さない。
「それにしても寒い。半袖で来るんじゃなかった。」
普通に考えて、春上旬は半袖で外を歩こうなんて考えるひとは少ないし、まだ引き返そうとすれば、全然問題なく引き返せる距離であるはずなのに彼のプライドはそれを許さない。
しばらく車の通らない国道の隣にひとつだけある歩道を歩いていると、左側にあった住宅地は完全に見えなくなり、代わりに自然豊かな景色が広がる。
「この道のこの時間帯はよく出るって噂されてるから人通りが非常にすくないんだよな……」
百メートル間隔で並ぶ街灯のもとを通ろうとすると、まるでふりを回収するが如く、草々がガサガサっと揺れる。そして、ここで問題。田舎の夜道において、もっとも恐れるものと言えば?
「まさか、こんな時間にも出てくるとは…………流石は、マムシ道と呼ばれるだけはある」
赤を中心とした、水色の水玉模様のある体長80センチメートルほどの大きめのマムシ。湊の表情が変わる。街灯があるおかげでお互いに辛うじて位置の把握は出来ているものの、湊の表情はマムシには見えていなかったのだろう……否、見えていても結果は変わらなかっただろう…………なぜなら、湊は笑っていたから。
よし、いっちょやりますか。足を肩幅に開いて、重心を少し下げる。そして、空手でよく使う右手を引き、左手を前に出し、相手の攻撃を待つ、お互いに睨み合いの状態が続く。「思わず唾を飲み込む。さっき食ったカレーの味がする。それにしてもまずい、あっ、カレーではなくて、こっちの条件は相手の首を捕まえたら勝ち。逆に、相手は僕に嚙みついたら勝ち。頭のすれすれを捕まえないと負けだ。呼吸を深くして脈を安定させろ。僕ならできる。」その思考と同時にマムシが矢のように高速で首目掛けて飛んでくる。集中力のおかげで思考が加速する。少しばかり震える手を無理やり動かして相手の首目掛けて腕を振る。そこで、恐怖に負けた、まぶたは視界の 共有をストップする。
「せいやっ」
ブニブニと柔らかい感触が右手の神経を通して伝わってくる。恐る恐る目を開けるとジャストで首を捕まえることに成功している光景が目に入る。
「ふっざまあみろ、これで12勝じゃ」
そこから先の行動は先ほどのカッコよさをマイナスにまでもっていくほどダサかった。腕に巻き付いてくるマムシの行動を気にも留めず、ただひたすらマムシを煽った…………おっと、まずい早く目的地に行かないと。
「それにしても何でこんな時間に呼び出すんだよ……まあ、仕方ないか約束だしな」
僕は今どこにでもあるような古臭い高校の校舎裏で、校舎と学校に植えられている木々に挟まれる位置で寂しげに立っている。それにしても遅い……俺が十分前行動したのも遅く感じる理由の1つだが、それでも待ち合わせの時間からは二十分も過ぎていた……そこでようやく人影が近づいてくる。
「遅えぞ……」
このとき僕は恐怖で体をピクリとも動かすことができなかった。なぜなら、待ち合わせ場所に来たのは上下を黒一色で整えた僕と同じくらいの身長の男?で、暗いのもあるが、顔を覗き確認することすらままなら無いほど、深くフードを被っている。あれをするしかないか……深く深呼吸をして、「この勝負は一か八かだ。」マムシに勝った時よりもさらに集中力を高める。拳に汗が流れるのを感じつつ、決死の覚悟で実行する。
「すいませんでした」
覚悟を決めてからの動きは単純で、膝を曲げて、両手と頭をコンクリートの大地にピッタリとつけて、これ以上は無いほどの綺麗な土下座を決める。
「おいおい、県チャンピオンの空手家の称号が泣いてしまうぜ」
「ほえ?」
不審者から聞こえた声は僕の最も知る声と言っても過言ではない人物のものであった。ちなみに、空手でどれだけ強くともピストルを持った相手には勝ち目がないので、僕の行動は間違ってないと思う……まあ、ピストル持ってなかったぽいけど…………。
「マムシには勝てるのに、不審者には土下座って、空手は対人間用のはずだぜ?」
「うるさい、だって不審者はピス……なんでマムシと戦ったことをしっていんだ?それにその服装と言い……」
「完全に不審者じゃん、だろ?」
「いや、だろ。じゃねぇよ」
はいはい長年の付き合いだからわかってますよみたいな、反応にイラっとくる湊。
「相変わらず、約束って言うと、飛んでくるな」
「うるさい、つーか、今それ関係ないから」
久しぶりに会った親友が会話の仕方を忘れている様子に酷く悩まされているが、ここで折れないのが湊のいいところ。
「何でそんな格好をしているんだ」
「この服を湊に上げるためだぜ」
「いや、普通に手渡ししろよ、まじで心臓止まるとこだったかんな」
そんなことより自己紹介がまだだったな、俺は健夜湊さつき高校2年生で空手をしている。趣味はゲームである。そして、こっちの不審者が兼護 陽日で、こっちは空手部である。糸つだけ言えることは、不審者が着るような黒一色のコーディネートが似合わないくらいにお人好しなのだが……。
「何でそんな格好をしているんだ」
「これはな、影に同化して、人の後を付けるのにピッタリだからだぜ」
以前は困っている人は助けて、いじめをしているやつは容赦しないような勧善懲悪な男だったに……頭のネジが外れたらしい……叩いて戻してあげよう。
「さっきも湊の後を付けてたけど、気づかれなかったし」
「じゃあなぜ俺を三十分も待たせる」
待たされたことに苛立ちはあるものの、湊の知っている陽日であることを再確認することができて少しほっとする。しかし、湊の中で謎が増える。なぜ、俺の後をつけたのだろうか。なぜ、お人よしの陽日がストーカーという人の心を傷つけることをするのか。結果が出ないまま、陽日の顔が真剣になり、眉間にしわが寄る。
「すみ……いや、健夜湊。俺はお前にどうしてもお願いしたいことがある。」
陽日は誰よりも空手に熱心に取り組んでいる。いずれはトラを殺すのか、そのくらいの勢いで。そんな陽日を見て僕はいい方向に感化されているし、感謝もしている。そして、今の陽日は空手でしか見たことがないほどの気迫で俺に頼みがあると言う。もしかしたら、失敗したら命がなくなる程お願いなのではないか。気づけば、鼓動は滝のような勢いで脈打ち、呼吸が乱れている。そのことを湊は自覚していないことに驚くべきであろう。一方、陽日の覚悟を決したかのように口から躊躇い放たれる。
「今日、君のクラスに来た。あみ…………見玉美月のストーカーをしてほしいんだぜ」
何を言っているんだこいつは。意味が分からないんだけど。頭のねじが外れたんじゃないか?しかも、なんで転校生なんだ?先ほどまでの港の緊張は嘘のように消える。
「ひとつ、だけ聞きたい。その、転校生……」
「転校生じゃないぜ、見玉美月だせ」
そこはこだわるところなのか?しかし、結構切れ気味な顔されて訂正されたら、指摘することができない。
「その美月さんに……」
「初対面なのにいきなり名前呼びかぁ?」
今日の陽日は非常にめんどくさいぞ。しかも、この反応は美月……見玉さんに恋しているのではないか?まさかの一目惚れってやつか。その気持ちよくわかるよ。
「じゃあ、その見玉さんに一目惚れしたってことか」
「そうだぜ。だから、俺より強いお前に見玉さんが犯罪者に襲われないか見守っていてほしいんだぜぇ」
「いや、それ俺自体が犯罪者じゃん」
「お前はそんなことをしないって信じているぜ」
こいつ、ストーカーが犯罪ってことは知らないのか?それとも見玉さんのような好きな人に対する愛が歪み過ぎているのか。僕的にはそんなことはどうでもいい、親友が犯罪を犯そうとしている、犯させようとしているのに黙って見過ごすわけにはいかない。
「ごめんけど、協力できない。それに、こんなことをして何になるって言うんだ」
湊は思っていることをはっきり伝える。しかし、先ほどまでの強気で誰にも俺は負けないオーラが陽日から消え失せる。逆に、しっぽを取られたトカゲのように、余裕の顔をなくし右目からは一本のしずくが垂れる。
「すまない、お願いする立場なのに上から目線過ぎた。頼む、一生のお願いだ。」
えっ、ここで一生のお願いを使うか普通。そう思った湊は絶句するしかなかった。なぜなら、陽日は両手を大地に着けて女ヒョウのポーズをとるわけではなくしっかりと額を大地つける。つまり、誰よりも強がりで試合の緊迫した状況でも口角を挙げて余裕を見せようとするほど、弱みを見せようとしない男が土下座。その意味の重大さが湊にはわかっていた。
「あ~~~~もう、わかったよ。引き受けるから、陽日の土下座は見たくない」
その言葉と同時に陽日の顔は初めて誕生日プレゼントを受け取った子供様に明るいものとなる。その顔を見て安心すると同時に湊は心の中で考える。こうして犯罪者は増えていくのか………………。
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